2005 Fiscal Year Annual Research Report
多文化主義の可能性と限界-オランダ・モデルにおけるイスラムとの共生の障壁-
Project/Area Number |
04J09628
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
久保 幸恵 一橋大学, 大学院・社会学研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | イスラム / オランダ / スリナム / 柱状化 / 移民 / 多文化共生 / 植民地 / 統合 |
Research Abstract |
なぜ、スリナム出身者のムスリム組織が、「イスラムの柱状化」に参加をしていないのかをテーマに研究を行った。理由として第一に挙げられるのは、スリナム出身のムスリム移民の組織は、多数の宗派に分かれていて、各組織が極めて少数派にとどまっていることである。スリナムにおける現地調査によれば、スリナムに居住するムスリムは、主にパキスタン、インドネシア出身者による。彼らは19世紀末にプランテーション農場の契約労働者として移住してきた人々の子孫である。そして、それぞれが、スンニー派とアフマディーヤ、ウエスト・ビーダーズとオースト・ビーダーズと呼ばれる集団に分裂している。スリナムにおいては各集団を取りまとめる代表組織が存在し、各集団間の意見の調整や、政府との交渉にあたっている。しかしオランダに居住している移民コミュニティの内部においては、各集団間の意見の対立が先鋭化しており、代表組織も組まれていない。なぜ、オランダでは対立が先鋭化しているのかは、今後の研究課題としたい。 第二の理由として考えられるのは、スリナムはオランダの旧植民地であったために、スリナムからの移民はトルコやモロッコの出身者よりも、オランダの法律や制度、言語に精通しており、経済状況や教育水準などが高いレベルにあるということである。従ってオランダ政府から全面的な財政援助を受けた組織を利用することなく、自助組織を通じて、自分たちのコミュニティの問題を解決することができる。それは政府からの干渉を受けることなく、自由に活動を展開できることを意味している。 結論として柱状化というシステムは、ムスリム移民の多様な需要に対応していないという限界があることが明らかになった。
|