2004 Fiscal Year Annual Research Report
ケニア西部ナンディ地区の人々の聾をめぐる語りと障害経験についての人類学的研究
Project/Area Number |
04J09661
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Research Fellow |
古川 優貴 一橋大学, 大学院・社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 寄宿制聾学校 / コミュニケーション / 学校教育 / 手話 / 語り / 障害者 / 聾者 / 言語 |
Research Abstract |
ケニア西部ナンディ地区にあるKプライマリ聾学校では、手話による教育が実践されている。低学年の授業では手話が母語として教えられ、全ての授業は手話及び英語表記で行われる。授業外でも、生徒同士のみならず教職員同士もしばしば手話でコミュニケーションをとる。 本研究では、第一に、こうした生徒を取り巻くコミュニケーション環境とそこで流通する情報について、生徒同士の会話をビデオカメラで記録し彼らに対するインタビューを実施した。第二に、複数の生徒の帰省先でのコミュニケーション手法のあり方と会話の内容を記録した。 以上の調査研究により、次のことが明らかになった。第一に、当聾学校では複数の種類の手話が混在するが、生徒はそれを問題視しておらず、聾学校内でのコミュニケーションに不自由することはない。逆に、一種類の手話だけを習得して来校した、大学からの研修生や教育実習生、海外からのボランティアの側がコミュニケーションに不自由するという意識を持つ。第二に、生徒が帰省先の各家庭及び近隣や市場などの公衆の場でも、ホームサイン、リップリーディング、発話、筆記などのコミュニケーション手法を用いる。それだけでなく、家族のみならず、手話を知らない人々に、手話を家族に教えてそれを使用する事例が多くみられた。第三に、聞こえないことに関する語りは、調査者側が問わない限りほとんど見られなかった。 以上のことから、当聾学校の生徒にとって、医学的コンテクストにおける「聞こえないこと=障害」は、妥当ではない。また、近年主張されるようになった「特定の手話を共通言語とする(音声言語に抑圧されている)言語的少数者としての聾者」という定義を、彼らに適用することも妥当ではない。従って、調査者の側による彼らに対する「障害者」あるいは「聾者」という規定をはずした上で、彼らの語り方と語りの内容を記録・分析することで、従来とは全く異なった議論を展開してゆくことが可能であろう。
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