2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
04J09819
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
柳澤 田実 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 語り |
Research Abstract |
平成16年度の研究活動は、三回の学会発表とその成果を二本の論文にまとめる作業が中心であった。一本目の論文は「愛と語り、そして幸福の可能性について-ニュッサのグレゴリオスにおけるパレーシア概念を中心に-」であり、これは6月開催の第55回公共哲学フォーラムおよび7月開催の第一回多摩哲学会における口頭発表に基づくものである。この論文は、ニュッサのグレゴリオスにおける「関係性」と「語り」の問題を主題化し、先行論文に対する新しい解釈を提示したものである。グレゴリオスは、「全てを語ること」を意味するパレーシアという概念を神との友愛関係ではなく親子関係に当てはめ、神との友愛関係にはより一方向的な語りである「呼びかけ」がふさわしいと考えた。親子関係における語りが、緊密な類似関係の上に成立する語りであるのに対し、友愛関係における語りは様々な前提条件なしに関係性それ自体を立ち上げる語りであり、これは『創世記』冒頭において万物を創造した神の言と関係づけられる。また本論文では、グレゴリオスの議論と現代の精神分析理論との類似性の指摘も試みられた。二本目の論文は、「喪のための場あるいは物語への抵抗-教父ニュッサのグレゴリオス著『モーセの生涯』を中心に-」であり、これは12月開催の第57回公共哲学フォーラムの口頭発表に基づいている。この論文は、「死」という語り得ない出来事が、単一の物語的連関を多層化させ、別の地平(これを筆者は「喪のための場」と言表した)を導入する構造について、グレゴリオスの旧約聖書解釈を題材に論じたものである。本論文は、大きな物語が喪失された現代において物語の可能性を模索するというフォーラムの趣旨に対して、物語り得ない要素を主題化しつつ問題提起を行ったものである。以上の二本の論文はともに東京大学出版会の『公共哲学』シリーズに収録される予定である(入稿済み)。また上記の論文執筆以外には『フィロカリア』の翻訳作業を進めた。
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Research Products
(2 results)