2004 Fiscal Year Annual Research Report
金融システム移行期における銀行組織と金融規制の進化の実証的研究
Project/Area Number |
04J09861
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Research Fellow |
鯉渕 賢 東京大学, 大学院・経済学研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 銀行破綻 / イベント・スタディ / 債権放棄 / 過剰債務問題 |
Research Abstract |
3年間の研究機関の初年度にあたる本年度は、研究課題の下で、2編の雑誌論文の公表を行うことができた。 まず「銀行破綻と借り手のパフォーマンス」は、1990年代後半の日本の金融危機における大手銀行3行(拓銀、長銀、日債銀)の破綻に焦点を当て、銀行破綻が融資先顧客企業のパフォーマンスにどのような影響を与えたかを、上場企業の倒産企業数と、月次株価を用いたイベントスタディーによって分析した。破綻3行の顧客企業の破綻以後の倒産企業数を見ると、拓銀と日債銀の顧客企業の倒産がほとんど観察されなかったのに対して、長銀の顧客企業の倒産が、特に長銀を引き継いだ新生銀への譲渡後に著しく増加していることが確認された。また、存続している顧客企業の株価を見ると、多くの倒産が発生した長銀の存続企業の株価だけが譲渡時点をはさんで統計的に有意な上昇を示し、逆に、倒産がほとんどなかった拓銀・日債銀の存続企業の株価は長期的に低迷したままだった。 次に、「主力行の債権放棄比率:誰が多く負担するのか?」は、1998年以降の日本の主な債権放棄事例に焦点をあて、債権放棄額がメインバンク(MB)とその他の貸し手の間でどのように配分されているかを検証した事例研究である。分析では、建設・不動産・小売といったいわゆる構造不況業種の債権放棄事例では、融資比率の高くないMBによる債権放棄負担比率は少なく、債権放棄後の業績も思わしくないものがほとんどであった。しかし、比較的財務状態がよく、債権放棄以後の業績も良好であった卸売業の債権放棄においては、融資比率に関わらず、MBの債権放棄負担比率は高く、MBが主導する債権放棄がこれらの企業の業績回復に貢献していることが観察された。 以上の研究成果は、銀行中心の金融システムの残存する日本の金融市場において、依然として銀行部門が重要な役割を担う可能性を示唆している。
|
Research Products
(2 results)