2005 Fiscal Year Annual Research Report
プルーストにおける絵画の受容論的研究-第三共和制下の美術旅行・美術館・展覧会-
Project/Area Number |
04J09865
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
荒原 邦博 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | プルースト / 『失われた時を求めて』 / 美術史 / フランス |
Research Abstract |
プルースト(1871-1922)の小説『失われた時を求めて』における絵画と美術批評の問題を、私はこれまで美学的な観点から研究してきた。その過程で、美術批評という言説の生産を支え、また統御している同時代の社会的・文化的制度それ自体に注目することで、小説家と美術との関係を分析する新たな視座が得られるのではないかという着想を得た。第三共和制下のフランスに特有な美術に関する社会的・文化的な受容形態のコンテキストを再現し、その中に小説の挿話を置き直し、プルーストの考察の射程を測定する作業の持つ意義は少なくない。本研究はこのように、美術の社会史における昨今の知見の刷新に基づき、プルーストと美術というテーマを新たな角度から解明することを目的とするものである。第二年度はその一環として、一方では、オランダ・ベルギー絵画を巡る幾つかの挿話、具体的には小説の第三巻『ゲルマントのほう』に見られる三つの断章の生成過程を、草稿、清書原稿、校正刷りへの加筆を辿って調査した。その結果、オランダ絵画コレクションの国際的な広がりに関する登場人物の知見の単純な肯定から、同じ人物のオランダ美術旅行の浅薄さと画家の提示する光の美学との対比という構成の変化があったことが確認できた。また他方では、小説家の進化論に関する特異な解釈に立脚して上記の三つの断章中に登場するマネとモローを巡る言説を分析した。同時代の性科学理論を拡大適用し、モローの描く人物像に性倒錯における起源状態の回帰を、またマネの作品には同時代の美術批評に顕著な進歩主義的美術史観に対抗する反証としての古典性の回帰を認めるプルーストの美学的特徴を明らかにしたこの研究成果は、『日本フランス語フランス文学会関東支部論集・第14号』(2005年)に掲載の論文で発表された。
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