2004 Fiscal Year Annual Research Report
プルーストにおける絵画の受容論的研究-第三共和制下の美術旅行・美術館・展覧会-
Project/Area Number |
04J09865
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
荒原 邦博 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
|
Keywords | プルースト / 失われた時を求めて / 美術史 / フランス |
Research Abstract |
プルースト(1871-1922)の小説『失われた時を求めて』における絵画と美術批評の問題を、私はこれまで美学的な観点から研究してきた。その過程で、美術批評という言説の生産を支え、また統御している同時代の社会的・文化的制度それ自体に注目することで、小説家と美術との関係を分析する新たな視座が得られるのではないかという着想を得た。第三共和制下のフランスに特有な美術に関する社会的・文化的な受容形態のコンテキストを再現し、その中に小説の挿話を置き直し、プルーストの考察の射程を測定する作業の持つ意義は少なくない。本研究はこのように、美術の社会史における昨今の知見の刷新に基づき、プルーストと美術というテーマを新たな角度から解明することを目的とするものである。初年度はその一環として、一方では19世紀末から20世紀初頭に作家が行った二度の西欧北方美術旅行の目的であった展覧会と、それとの関連で捉えられるルーヴル美術館での展覧会の意味を、展覧会カタログ・美術雑誌の展覧会評などを通して調査した。その結果、1898年のレンブラント展が国際的な収集と集客とを同時に実現し、また国民文化を体現する画家という主題が提出された、歴史上初めての展覧会であったこと、この美術における近代的ナショナリズムの発生に呼応して、1902年のフランドルのプリミティヴ派展と1904年のフランスのプリミティヴ派展が開催されたととが確認できた。また他方では、近代絵画を病理学的に記述する精神医学という科学的言説と、官展を中心とする美術制度との関係を、ゾラとプルーストの小説の間でたどる作業を行い、遺伝概念を変質から再生へと読み替える変化があったことが確認できた。この後者の成果を論文として発表した。
|
Research Products
(1 results)