2005 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
04J09922
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中島 聡子 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 歴史 / 16世紀 / スペイン / 結婚 / 共同体 / 移民 / 帰郷 |
Research Abstract |
1990年代以降、地方史や人口動態研究などの成果が蓄積され、近世スペインの人口移動に関する研究は、「定住する低所得層」「土地に縛り付けられる農民」という定説を覆した。一方で明らかにされていないのは、近世の低所得層の人々の一生を通した地理的移動パターンである。例えば、見習い修行をするために故郷を離れた子供たちは修行期間終了後に帰郷したのか、修行地に留まったのか、あるいは新たな土地に移ったのか、私たちが知るところは少ない。近世の低所得層の人々がどこに住んだのかという点、そして彼らがどこの土地に所属意識をもったのかという点は、移民の一回の移動のみに注目していたのでは、解明することはできないからである。 この点を明らかにするために、本年度は史料、二次文献の調査から始めた。先行研究が用いた史料が提供する情報では不十分であったために、移民たちが彼らの一生の間にどのような移動をしたのかという情報を提供するような新たな史料の発掘を行った。マドリッド国立歴史文書館所蔵の異端審問記録の中のディスクルソ・デ・ラ・ヴィーダの調査をした。ディスクルソとは、異端審問所の被告が初審時に、生まれてから逮捕されるまでの人生を、主に地理的移動に関して述べたものの記録である。937件の裁判記録を調査し、そこから352人のディスクルソを収集した。主にこのディスクルソを用いて、十六世紀スペインの低所得層の地理的移動パターンを分析した。故郷を離れる人々の数、年齢、性別、職業、移動回数、帰郷の有無などを調べた。また、「帰る」という動詞を人々がどこの土地に言及するときに用いているのか等も分析した。さらに同時代の文学作品の調査も行った。登場人物が富裕層の場合と、低所得層の場合、移動パターンにどのような違いがあるのかについて分析を試みた。 これらの調査は、十六世紀スペインの低所得層の間では、生まれ故郷に住み続ける人は全体の一割にも満たなく、かつ、異郷に住んだ人々が地元に一時帰郷することも殆んどなかったことを明らかにした。これらをもとに、論文の執筆を行った。
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