2006 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
04J09922
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中島 聡子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 西洋史 / スペイン / 結婚 / 十六世紀 / 人口移動 / 移民 |
Research Abstract |
本年度は十六世紀スペインの低所得層の人々の結婚の絆について史料、二次文献の調査を行い、それをもとに論文の執筆をした。 (1)昨年度の調査の結果、民衆の間では地元に帰らない移動パターン"Non-return migration"が広く実践されていたことが明らかになった。この移動パターンは独身者に特有なものではなく、多くの既婚者が妻を地元に残して出稼ぎにでた後、家族のもとに帰ることはなかったことが複数の種類の史料の調査の結果、明らかになった。例えば、重婚裁判史料には「帰ってこない夫」「置き去りにされた妻」が必ず登場する。また、今年度の調査結果によれば妻から夫に宛てられた書簡などには家族を顧みない夫を非難するもの、また夫の帰還を懇願するものが多くある。例えば、メキシコ総文書館異端審問セクション所蔵のスペインから新大陸に渡った移民への手紙(16世紀)111通の内、69通は夫の不在に関するものであった。16世紀スペインの夫たちの多くは"Non・return migrants"であったということを考慮にいれると、当時の民衆の結婚生活は、夫婦が各自、別の土地で暮らしていたということになる。さらに、史料を分析すると、この地理的別居は、多くの場合、一時的なものではなく、恒常的なものになったことが明らかになった。十六世紀スペインの民衆の結婚生活の多くは地理的別居の形をとったのである。 (2)地理的別居という形をとった結婚生活はどのように「置き去りにされた妻たち」によって営まれたのかを様々な史料から検討した。従来の研究史では、置き去りにされた妻や独り身の女は生家の父母や親戚を頼ったという説が主流であったが、今年度の調査結果では、親戚の家に身を寄せることはむしろ稀であったことが明らかになった。むしろ、自ら生計をたて、vecindad住民権を獲得し、家族を自ら養った女達が多くいた。また、夫の不在中に別の男と同棲、さらには再婚(重婚)するものも多くいた。 (3)上記の二点を踏まえた上で、民とエリートの結婚に関する認識の違いを検討した(絆の結び方、維持の仕方、切断の仕方)。具体的には、結婚に関する法律、及び、ナヴァーラ総文書館にて108件の姦淫裁判を調査した。夫と一緒に住んでいそ妻と置き去りにされた妻に対する扱い方の違いに注目をした。これらの調査から明らかになったのは、まず、夫の不在時における妻の姦淫はエリートも民衆も黙認しただけでなく、関与することをむしろ拒んだ点である。夫の不在時における妻の性生活に対して、民衆と当局の態度が異なったのは、その関係が再婚という形をとったときであった。教会と国家は重婚を認めなかったのに対して、夫の不在時における妻の再婚(重婚)は民衆の間では黙認、また多くの場合は推奨された。
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