2004 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
04J09938
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山上 紀子 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | オデロン・ルドン / 19世紀フランス / 芸術と社会 / 受容研究 / ゴブラン織り / コレクター / 画商 / 展覧会 |
Research Abstract |
19世紀後半から20世紀初頭に活躍したフランス人画家オディロン・ルドンの芸術に関し、今年度は第一に方法論的考察を行った。難解で謎めいたモチーフに満ちたルドンの作品を解明するに際し、視覚芸術と文学との関係を考察する図像学的研究は有効な方法だが、その結果はいずれも推測の域を出ず、限界が見出される。これを乗り越えるために、作品の受容関係の解明が必要と思われた。ガンボーニはその研究において1880年代の批評家・文学者ら同時代の解釈者による受容を問題としたが、本研究では1890年代より晩年までを支えたさまざまな職種の愛好家たちによる受容にまで範囲を拡げ、画家を取り巻いた環境の変容を考察した。1890年代以前には、受容者(解釈者)と画家とが作品に対し相互に解釈を与えあう関係が見られた。90年以降にも、画家が特権化した一部の受容者によりその他の受容者が選ばれ、解釈は管理され続けたが、画廊の仲介と展覧によって受容者層は拡大した。1900年頃にルドン芸術に大きな変化が見られたのは、その結果、多様な解釈にさらされたためであると考えられる。 第二に、ルドン芸術受容の研究の一つとして、フランス政府から受けた注文制作作品(ゴブラン織り下絵)について調査、考察を行った。オディロン・ルドンは晩年に画廊及び顧客から注目を集める一方、それまでまったく評価を得ることのなかったアカデミックな美術界からも一定の評価を得た。この注文をめぐり調査を進め、画家に作風の変化(装飾的傾向)を促した要因と考えられる受容者の拡大をめぐり、その社会的背景を探った。その結果の一部を、昨年度、学会誌に発表したところ、2004年5月に美術史学会論文賞を受賞した。今年度もこの研究を継続し、画商-展覧会-顧客の連携による新しい美術市場が活発に機能しつつあった19世紀後半における、画家評価のメカニズムを具体的に検討した。
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Research Products
(3 results)