2004 Fiscal Year Annual Research Report
ワレカラ類(甲殻綱:端脚目)における有機スズ化合物の生物影響に関する研究
Project/Area Number |
04J10381
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大地 まどか 東京大学, 海洋研究所, 特別研究員(PD)
|
Keywords | 有機スズ化合物 / 生物影響 / 個体群動態 / 沿岸生態系 |
Research Abstract |
本研究は、沿岸生態系を脅かしている有機スズ化合物(トリブチルスズ;TBT)に着目し、ワレカラ類を用いて生物影響評価を解明することが目的である。これまでの実験により、TBTは、海洋環境中で検出される濃度(10ng l^<-1>や100ng l^<-1>)の暴露により、ホソワレカラの生残、成長速度の減少、生殖障害および形態異常等に影響を及ぼすことが明らかになった。また、性比は、孵化後の50日間のTBT暴露では変化がみられなかったが、卵発生期の暴露により変化することが明らかになった。しかしながら、卵発生期のどの時期に性比が攪乱されるかについては不明である。そこで、本年度は、卵発生期間をさらに細分化して暴露時期を絞り込むことにより、卵発生期における性比の攪乱のタイミングをより詳細に検証した。 岩手県大槌湾より前成熟期のホソワレカラのメスを採集し、清海水で飼育した。これらのメスが成熟期に達し次第、オスと交配させ産卵を促した。卵発生期に相当する5日間を12時間毎に分割し、各時期に各成熟メスを100ng TBTCl/lに12時間暴露させた後、濾過海水に戻し、室温20℃、光周期12L/12Dに設定したインキュベーター内で飼育を継続した。毎日定時に珪藻の給餌、実験溶液の交換を行い、抱卵した雌の育胞内の卵数や孵化した幼体の性別を調べた。 性比は、対照区では雌が38.7%であったが、産卵後12〜60時間に暴露した個体で雌の比率の増加がみられた。雌の比率は36〜48時間で最高(71.4%)になった。産卵後12〜84時間にTBTに暴露された個体では抱卵数の減少がみられた。卵が脱落する頻度は、暴露時期が遅くなるに従って26.7%から4.6%に減少した。以上の結果から、TBTがホソワレカラの性比および卵形成や卵発生に影響を及ぼす時期は、卵発生期間の比較的初期であることが明らかになった。 これらの結果はJournal of the Marine Biological Association of the United Kingdom誌およびCoastal Marine Science誌に公表した。
|