Research Abstract |
私の研究テーマは「民間団体の社会福祉活動に関する理論的・実証的研究」である.今年度は,その大きなテーマのなかで、「福祉国家形成の『韓国的経験』という具体的なテーマを定め,理論的研究と経験的研究を進行してきた. まず,理論的研究の対象は「韓国福祉国家性格論争」であった.この論争は,韓国の福祉国家に関する社会科学分析の出発点とされるが,次のような重大な難点を抱えている.つまり,それは国家対市場という従来の認識構図と,それと表裏関係にある「国家中心主義バイアス」という問題であるが,前者は,その二項対立的図式のゆえに,グローバル化の時代に福祉国家を形成している韓国の政策的現実を的確に把握できないし,後者は,その単一要因的あるいは段階論的説明のゆえに,福祉国家形成の背後にある歴史的・構造的問題を無視してしまう. このような既存研究の限界を念頭に置きつつ,次に,経験的研究においては,一方で「『遅れた福祉国家化』による福祉国家形成とグローバル化圧力の同時進行」という特徴と,他方で「『遅れた民主化』による急激な民主化と福祉政治の脱階級化の同時進行」という特徴を見出した.90年代後半以降韓国では,この2つの状況が結合し,福祉国家の拡大の働きと抑制の働きが同時に現れることになったが,これは,言い換えれば,西欧先進諸国における福祉国家「形成」の特徴と福祉国家「再編」の特徴が同時に働きつつ,韓国の福祉国家のあり方を方向づけていることである. このようにみておくと,上述の韓国福祉国家性格論争に見られる二項対立的構図は,実は,互いに排他的ではなく,むしろ対立しているかようにみえる諸特徴を併せ持つ韓国の政策的現実を反映している.今後,このような問題意識に基づいて,一方では,韓国における福祉国家の特徴を分析するための分析視点として,「福祉社会の福祉政治」という考え方を精巧化していくとともに,他方では,そういった視点から,日本を含め他の国との比較分析をしていくことを目標としている.
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