2004 Fiscal Year Annual Research Report
18世紀末から19世紀前半のロシア文学成立過程におけるサロン的読者像の変容
Project/Area Number |
04J10421
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
安達 大輔 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ロシア文学 / 18世紀 / 19世紀 / 公共性 / サロン文化 / 告白文学 / メディア論 / ジェンダー |
Research Abstract |
本年度は、主に以下の三点から課題に取り組んだ。 1.18世紀末から19世紀初頭のロシア文学におけるサロン的読者像を、作家カラムジンの言語論を中心に再確認した。その一環として、基本文献である、ウスペンスキイ『18-19世紀初頭のロシア標準語史から:カラムジンの言語プログラムとその様々な歴史的起源』第1章を解説した論文を発表した。 2.前述したカラムジンらが構想したサロン的な読書空間では、主人公の身体や内面が噂・会話・手紙といった言語のネットワークによって隈なく表象されていた。作家オドエフスキイが1830年代に発表した二つの「社交界小説」は、このネットワークが破綻し、女性の身体や内面が言語化不可能なものとされることで、複数の「現実」が並列する空間を開いている。私たちがいまだその圏域のなかにいるリアリズム的な読解は単数かつ客観的な現実を前提するが、オドエフスキイのテクストはそうした現実観を歴史化する上で有効である。以上の内容を、「「周縁」を文学史に位置づける:オドエフスキイの「社交界小説」をめぐる読みの(脱)構築」(2004年度日本ロシア文学会研究発表会於稚内北星学園大学、2004年10月3日)で発表した。現在は、その成果に基づいた論文を『ロシア語ロシア文学研究』に投稿中である。 3.以上の分析を通じて浮かび上がってきたのは、18世紀末から19世紀前半にかけてのサロン的読者像の変容は、社会的な言語とは分離した自律的な言語領域としての個人の内面が構築されてゆく過程でもあるという仮説であり、その検証のため「告白」ジャンルの研究に着手した。本格的な作業は次年度に委ねられるが、準備段階として「書記メディアとしてのポプリーシチン:ゴーゴリ「狂人日記」と告白の場」(第31回19世紀ロシア文化研究会於東京大学、2004年12月18日)と題する報告を行い、現在はその成果をまとめた論文を執筆中である。
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