2004 Fiscal Year Annual Research Report
電気伝導性・磁性の光制御を目指した光応答性有機・無機複合錯体の開発
Project/Area Number |
04J10891
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大久保 將史 東京大学, 大学院・総合文化研究科, 学振特別研究員(DC2)
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Keywords | 光磁性 / ジアリールエテン / BEDT-TTF |
Research Abstract |
電気伝導性・磁性の光制御を目指した光応答性有機・無機複合錯体の開発を目指し、具体的に3つの系について合成・物性解析・光応答物性探索を行った。 まず、電気伝導性の光制御を目指し、電気伝導性を持つ有機分子BEDT-TTF(bis(ethylenedithio)tetrathiafulvalene)と、光応答性異性化反応を起こすことで知られるニトロシルルテニウム錯体[RuCl_5(NO)]^<2->を組み合わせた有機・無機ハイブリッド錯体を合成した。構造解析の結果、電気伝導層であるBEDT-TTFレイヤーは、有機超伝導を与える可能性が大きいκ型の構造を形成していることを明らかにした。電気伝導度・磁化率測定により、この系はトランスファー積分が小さく、オンサイトクーロン反発の強いモット絶縁体であることが判明した。また、この系に特異的なこととして、顕微ラマン分光測定により、BEDT-TTFからニトロシル基への電子移動が起こっていることを明らかにした。すなわち、ニトロシル錯体が有機ドナー分子とカウンターイオンとして相互作用することにより、ホールドープといった物性の制御に繋がる可能性を持つことを示した。 次に、磁性の光制御という目標に対して、光異性化分子ジアリールエテンをカチオン化し、面内強磁性相互作用を示すペロブスカイト型銅ハロゲン化錯体CuCl_4のカウンターカチオンとして導入したハイブリッド錯体を合成した。ジアリールエテンの開環形・閉環形を持つ錯体それぞれについて磁性測定を行った結果、開環形を対イオンとする錯体においては3.4Kで反強磁性転移するのに対し、閉環形を対イオンとする錯体においては1.8Kまで磁性転移が認められなかった。この現象は、ジアリールエテンの構造変化に対応した面内ヤーンテーラー歪みの増大に伴った磁気的相互作用の減少で説明され、同時に、ジアリールエテンの開環・閉環により磁気転移を制御することに成功したと言える。 最後に、磁性の光制御を目指し、光異性化分子ジアリールエテンをアニオン化し、強磁性を与えることで知られるLDHs(Layered Double Hydroxides)と組み合わせ、ハイブリッド錯体を合成した。この系においては、固体中でジアリールエテンの光異性化反応が起こることを紫外可視吸収スペクトルから明らかにした。そして、この光異性化(開環→閉環)に伴い、磁性がハードな強磁性体からソフトな強磁性体に変化することを明らかにした。さらには、閉環→開環の光異性化により、この変化がリバーシブルに起こることも示した。
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