2006 Fiscal Year Annual Research Report
近代フランスにおける都市計画史と建築美学史を中心とした都市建築史研究
Project/Area Number |
04J11289
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
戸田 穣 東京大学, 大学院工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | フランス / 建築史 / 啓蒙主義 / フランス革命 / モニュメント / 祝祭 / ルグラン / モリノ |
Research Abstract |
本年度は、18世紀末から19世紀初頭に至るパリ市都市計画にかかわる史料の調査収集に努めるともに、当時の建築・都市にかかわる雑誌・刊行物を中心に調査し、当時の建築・都市開発の動向と建築思想を明らかにした。前者においては市場=屠殺場の関係に注目した。市域の拡大と人口増加に直面したパリは、旧制度下の大規模土地占有者(主に修道院)の土地建物を再利用する。とくに懸案であったのは市場の増設である。またそこに供給する屠殺場も大規模化した。屠殺場は衛生観念と死の忌避から郊外へと移転する。市内の市場と郊外の屠殺場とは流通における重要な結節点であり、その関係から都市構造を把握することが出来る。パリ市建築家としてこの分野の重要な建築家であるジャック・モリノは、同時に公共墓地も担当した。死を介して機能的施設と象徴的施設との関係をも考察の対象とした。革命期から建築・都市関係の出版が盛んとなる。モリノと協働したジャック=ギヨーム・ルグランはJournal des artsやJournal des Batimens civils等の主要雑誌の執筆者として重要な役割を果たした。当時の言説を追うことで、従来の19世紀の建築史、鉄・コンクリートの出現等に支えられた技術史的建築史、および創造性を失った折衷主義という進歩主義的建築館は修正を迫られる。近代初頭のフランスにおいて建築家の役割は3つあった。建物の建設に加え、モニュメントの建立と祝祭の演出である。様式史的観点から技術史的観点へという見方は、歴史的には建築の社会的な役割の全体を映し出しているとは言いがたい。上記モリノがパリ市の祝祭の演出家であったことも考え合わせれば、一人の建築家に期待された活動の広がりが理解される。建築家は、狭義の「工学的な」建設行為に留まらず、今日の日本でいうところの「イベント」、さらには国家の「記憶」「歴史」の問題をも担っていた。現在の建築および建築家の役割を歴史的に再考することが今後の課題となる。
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