Research Abstract |
本年度は,児童の抑うつ症状に関連する認知的情報処理過程に関する基礎的研究を主に遂行した. まず始めに,わが国の一般児童における抑うつ症状の実態を把握するため,児童を対象とした大規模調査を行った.その結果,小学4〜6年生の児童の11.6%が子ども用抑うつ自己評価尺度のカットオフスコアを上回る得点を示しており,わが国の児童の1割強が専門的な援助を必要とするレベルの抑うつ症状を示していることが明らかにされた. 次に,抑うつ症状に関連する認知的情報処理過程に関する基礎研究に用いるため,認知構造(スキーマ),認知操作(推論の誤り),認知結果(自動思考)といった,さまざまなレベルの認知的変数を測定するためのツールを作成し,その標準化作業を行った.その結果,認知構造のレベルの認知を測定する児童用非機能的態度尺度,認知操作のレベルを測定する児童用認知の誤り尺度,認知結果を測定する児童用自動思考尺度が作成され,信頼性と妥当性が認められた. 以上の測定尺度が開発された上で,それぞれのレベルの認知的変数が児童の抑うつ症状に及ぼしている影響について検討した.その結果,認知構造,認知操作,認知結果のそれぞれのレベルの認知が,児童の抑うつ症状に影響していることが明らかにされた. そして,これらの認知的変数を包括し,児童の抑うつ症状を維持させている認知的メカニズムを説明するモデルを構築した上で,その妥当性を検証した.構造方程式モデリングを用いた分析の結果,認知構造→認知操作→認知結果→抑うつ症状というプロセスによって,児童の抑うつ症状が維持されていることを示すモデルが作成され,データの当てはまりも良好であることが示唆された.
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