2004 Fiscal Year Annual Research Report
紛争、難民、グローバル化-東ティモール国境周辺社会の民族誌的研究
Project/Area Number |
04J50971
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
福武 慎太郎 上智大学, 外国語学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 東ティモール / 紛争 / 難民 / インドネシア / フィリピン / ムスリム / 分離独立運動 |
Research Abstract |
8月末から1ヶ月間、東ティモールにおいて、1999年9月の騒乱と難民体験に関する聞き取り調査を実施した。特にインドネシアと国境を接するコバリマ県において、難民としてインドネシア領西ティモールへ避難した体験を持つ人々にインタビューを実施し、当該地域における紛争の影響とその歴史的背景に関するデータを収集した。その結果、当該地域の人々が難民として西部へ逃れたのは今回がはじめてではなく20世紀初頭から数度にわたる移住の歴史があり、多くの親族がインドネシア領に居住していることがわかった。従って、いまだに帰還しない難民はインドネシア統合支持者といわれているが、その帰還の拒否の背景には親族関係を主とした複合的要因が存在すると理解された。この調査結果を、12月におこなわれた上智大学COE国際シンポジウムにおいて発表した。 12月から翌年2月にかけて、紛争地の比較調査のため、フィリピン・ミンダナオ島ラナオ・デル・スル州における現地調査を実施した。東ティモールと同様に分離独立運動が展開している当該地域において、現地で調査をおこなっている研究者の協力を得て、伝統的指導者や政治家、宗教指導者に対するインタビューを実施し、当該地域における紛争と運動の歴史的、政治的背景について調査した。その結果、キリスト教徒が支配的である国民国家に対する少数派ムスリムの抵抗として一般に理解される当該地域の分離独立運動の背景に、当該地域における有力な親族集団間の対立が存在することが明らかにされた。当該地域全体を支配する中央集権国家が誕生したことがなく、多くの村落共同体が相互に均衡を保ってきたという歴史性、そして国民国家に包摂される過程で、利権をめぐり内的な対立が悪化した政治構造は、東ティモールの状況と酷似しており、東ティモールにおける紛争の歴史的背景を再考する上で当該地域との比較は有益であることが理解された。
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