Research Abstract |
琉球列島は,大陸東縁の陸橋に由来し,鮮新世末から更新世初期にまず北,中,南琉球が分断され,漸次現在の島弧が成立したと考えられている.この島嶼化の過程が,植物相の分化や,植物種内の遺伝的分化に与えた影響を調査した. 琉球列島の主要26島について,種子植物ほぼ全種約1800種の有無を文献調査し,島間の植物相の類似度を種,属,科のレベルで算出した.この類似度に基づく解析から,琉球列島の植物相は,種および属レベルで見た場合に,北,中,南琉球間で有意に異なることが示された. 草本種サツマイナモリの系統地理学的解析を葉緑体DNA塩基配列に基づき行なった.その結果,琉球列島の複数の遺伝的タイプおよび中琉球固有の四倍体変種アマミイナモリはいずれも,台湾以南で既に分化し,その後に琉球列島へ進入したことが示唆された.また,トカラ海峡を挟む北,中琉球間で,遺伝的分化は認められなかった.この結果は,琉球列島の生物の分化が,海峡成立などにより当地域内で引き起こされたとする従来の説に対する重要な反例であり,今後の当地域の生物地理学的研究に大きな影響を与える示唆をもたらしている.また,系統地理学的研究においては独創的な試みとして,低温耐性の種内多型の有無を光合成活性を指標に調査した.その結果,低緯度(南琉球)の集団は高緯度(中琉球から九州)の集団に比べ,低温耐性が低いことが示された.このことは,琉球列島を分布北上する過程で,種内の一部は,緯度上昇に伴う気温低下により分散に制限を受けた可能性を示唆した. また,アマミイナモリについては,分子系統解析の結果,単系統群として明瞭に区別されたこと,さらに,サツマイナモリに見られる二型花柱性がアマミイナモリでは崩壊しており繁殖様式にも分化が認められたことから,その分類学的取り扱いを独立種とすることを提案した(日本植物分類学会第6回大会大会発表賞(口頭発表部門)受賞).
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