Research Abstract |
1.平成5年度に実施した大室古墳群・大室谷支群第168号墳は,測量調査の結果,長径14m,短径13mをはかる不整形ながら方形墳と推定することとなった。また,測量に先立つ墳丘清掃によって,墳丘の北,南側,即ち,石室をはさんで,その両側に,土師器片,埴輪片が積石の間に散見され,同時に,大室古墳群における典型的積石塚であることも確認した。平成6年度調査は,その結果をもとに,墳裾および石室の調査,加えて,墳丘各個所における土器類の分布状態についての調査を実施した。以下,その概略を記す。 2.石室について ;石室は,墳丘中心部よりやや南側に位置する。合掌形石室である。内法主軸長0.8m,幅1.85m,床面より天井まで1.15m,側壁高0.65mをはかる。主軸方位N-124°-IVを示す。現存する天井石は4枚であるが,もともとは6枚の板石をもって合掌形の天井部を構成していたものと考えられる。石室内は,すでに盗掘・撹乱を受けており,原位置を示す副葬品は皆無であったが,鉄片3個(剣身片か)を検出することができた。 3.墳裾の状況について;本年度は主として墳丘南側を中心として精査した。墳裾は2〜3列の石列によって構築され,その内側に不揃いな石を積み上げるという方法をもって墳丘を構築している。墳丘で散見された土器片は,いずれもその原位置を明確にすることができなかった。しかし,墳裾においては,石列の間に土師器,須恵器,埴輪片が,かなりまとまった状態で発見された。墳丘築成当時の原位置に近い配列のものと推定しうる。 4.出土遺物について;南側の墳裾で発見した土師器,須恵器は,いずれも5世紀代前半に比定される。ことに須恵器は全国的な視野からも初期須恵器の範疇に属するものであり,信濃では最古代のものとみてよい。埴輪片の他に「土馬」が律出しているが,土馬の古墳からの出土例がない。今後の検討課題となるが,大室168号墳の年代と被葬者の性格について大きな示唆を与えているものと考えている。すなわち,大室古墳群の成立過程の中に,古代官牧との関連性が一段と強くなったと推定している。
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