1993 Fiscal Year Annual Research Report
現代アメリカにおける「リテラシー」をめぐる諸理論の比較考察
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05610216
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
小柳 正司 鹿児島大学, 教育学部, 助教授 (10162075)
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Keywords | リテラシー / 機能的リテラシー / 文化的リテラシー / 批判的リテラシー / 識字教育 / 共通基礎教養 / empowerment / パウロ・フレイレ |
Research Abstract |
機能的リテラシーは、リテラシーを文字記号の操作に関する技能(skills)として捉える傾向が強い。しかし、それは、結果として、リテラシーに関する以下のような理論上の諸問題を提起した。(1)リテラシーの獲得は単なる技能の次元にとどまるものではなく、「声の世界」から「文字の世界」への飛躍を伴い、認識や知覚の次元の変革を伴う。(2)従って、教育方法の問題として、リテラシーの獲得は、機械的反復やドリルにはなじまず、むしろリテラシーという新たな道具を用いて自己と世界の関係を再調整(re-adapt)することに深く関わっている。(3)このことは、単にリテラシーの問題だけにとどまらず、日常経験の世界を越えた文化一般の伝達=獲得の様式としての教育全般の在り方に一定の反省を提起している。 文化的リテラシーの主張は、リテラシーの獲得には文化内容(知識)の理解が不可欠の前提として要求されるとする点で、重要な問題提起を行っている。すなわち、文化的リテラシーは、標準語によるリテラシーの獲得には一定水準の国民的な共通の文化理解が必要であることを明らかにし、この観点からナショナル・カリキュラムと共通基礎教養という考え方を打ち出しており、学習の個性化とカリキュラムの多様化を進める動きに対して興味深い問題提起となっている。 批判的リテラシーは、上記の文化的リテラシーの主張を支配的文化の正統化(legitimatization)を図るものと批判する立場から提起されたリテラシーの概念である。リテラシーは無色透明の技能ではなく、その獲得のプロセスは、それ自体、教育をめぐる政治的力学の作用の場であるとする主張を展開している。批判的リテラシーの主張については、次年度の研究においてさらに詳細な考察を加える計画である。
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