1995 Fiscal Year Annual Research Report
中国山地における民俗の形成と伝播-社会伝承を中心として-
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05610250
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Research Institution | Shimane University |
Principal Investigator |
喜多村 正 島根大学, 法文学部, 教授 (60101185)
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Keywords | 村落構造 / 入会林野 / 採草山 / 和牛放牧 / タタラ製鉄 / 荒神信仰 / 牛馬神信仰 / 民俗の地域差 |
Research Abstract |
本研究は、中中国山地を対象としてその民俗文化の実態や分布の分析を通して、地域的特徴を析出する事を目的としている。この地域は、島根、鳥取、広島、岡山の4県が県境を接する抱合地域である。古代より出雲、伯耆、備後、備中それぞれ別個の文化的伝統の上に立っているが、中国山脈は交通の障害となるよりは、文化交流の場として働いており、県を越えた民俗文化の類似性の濃い事が実証された。神戸上や高瀬の通婚圏の分析によっても、県境を越えての婚姻の多さを指摘できるし、村落における草分け伝承を見ても、異国からやってきて住みついたと伝える家が必ず1,2軒は認められる。中中国山地はかっての鈩製鉄地帯という特色を持つが、鉄山師たちは、国境を越えて自由に移動し、中国山地全体が一つの世界と写っていた。鈩関係の民俗や慣行を持つ点も中中国山地の村落に共有される特徴である。 この地域に最も顕著な信仰習俗は荒神信仰である。この信仰は全域に浸透しているが、地域的ヴァリーションも認められる。広島県や岡山県では村組単位に荒神を祀る事が多いのに対して、島根県や鳥取県では個人的に荒神を祀るのが一般的である。広島県の荒神は田の神として信仰されているが、岡山、鳥取、島根では牛馬の守護神とされている。また一部の地域では荒神は山の神と混同されているが、山の神が牛馬守護神とみなされているからである。 中中国山地では農家経営のために緑肥料を不可欠とする地域であり、共有山を採草地として利用してきた。また中国地方は全国有数の和牛飼養地帯であるが、採草地を放牧場を兼ねて利用するのがこの地方の特色である。放牧場の所有形態は大きく部落有林と私有林に分けられる。前者は生活に必須であるがゆえに維持されてきた入会山を利用するもので、後者は鉄山に遡る利用形態であり、いずれもこの地方に特色的な慣行である。
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