1993 Fiscal Year Annual Research Report
正倉院文書と古写経の研究による奈良時代政治史の検討
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05610286
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Research Institution | Miyagi Gakuin Women's Junior College |
Principal Investigator |
大平 聡 宮城学院女子短期大学, 教養科, 助教授 (40192520)
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Keywords | 正倉院文書 / 後写一切経 / 藤原仲麻呂 / 善光朱印経 / 五月一日経 / 手実 |
Research Abstract |
今年度は以下の3点について研究を進めた。 まず第一に、天平18年から天平21年(746〜749)にかけて行われた「後写一切経」事業の関係帳簿の復原・分析作業を行った。特に、技術職員の業務報告書と言うべき「手実」について、その署名部分をすべてについて写真版で比較検討し、基本的にそれが個々の職員の手によって作製されるものであることを確認した。しかし、同一紙に複数名分を連記する場合では、そこに名を見せる職員以外の人物によって作製された可能性がきわめて高いことを確認した。なお、本写経事業にかかわって作製された帳簿の全体像と、本事業そのものの分析結果は、来年度作製する本研究報告書において示すこととする。 第二は、この数年間重点を置いて進めてきた初期藤原仲麻呂政権下の仏教政策について、特に天平勝宝6年(754)に帰国した遣唐使の役割及び政治史との関係を中心に考察を加えた。その成果は、昨年9月に出版された『日本律令制論集』上巻(笹山晴生先生還暦記念会編、吉川弘之館刊)所収の「天平勝宝六年の遣唐使と五月一日経」校正段階において、補訂を行う形で一部公表することができた。なお、これに関連し、第三に、その影響下に行われた写経事業の遺品である「善光朱印経」の原本調査を行った。特に、藤沢市遊行寺所蔵増〓阿含経については、『大正新修大蔵経』所収本との間に巻数の違いが「一」あることが問題となっていた点について全文の対比調査を行い、両者が同訳であることを確認した。これにより、奈良時代に将来されていた増〓阿含経は第一巻「〓品」を欠くものであったと推測され、異訳本(現存せず)でないことを確認した。なお、藤沢市博物館設立準備の一環として行われている文化財指定に協力を要請され、同経の調査結果とその文化財としての重要性について、同市教育委員会にレポートを提出した。
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Research Products
(1 results)