1993 Fiscal Year Annual Research Report
腹圧性尿失禁と生物物理学的特性:腟前壁の強度測定と骨盤底筋群収縮力の評価
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05671311
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
近藤 厚生 名古屋大学, 医学部, 助教授 (30022875)
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Keywords | 腹圧性尿失禁 / 剪断強度 / 腟前壁 / 腹直筋筋膜 / コラーゲン |
Research Abstract |
目的:腹圧性尿失禁の病因は、膀胱頸部の過運動性、膀胱頸部の閉鎖不全、尿道括約筋の脆弱性である。最近の研究は、これら解剖学的欠陥とともに、結合織の先天性異常が関与している可能性を示唆している。腹圧性尿失禁患者の腟前壁と腹直筋筋膜の剪断強度を、尿禁制患者のそれと比較した。 患者と方法:26名の女性腹圧性尿失禁患者と対照患者(子宮筋腫の手術を受ける患者)21名を調べた。前者の平均年齢は51歳、60分間pad-testは41g/hと重庄、分娩回数は2.1回である。後者の平均年齢は44歳で尿失禁を認めず、分娩回数は2.1回であった。剪断強度は先端を定量化したStamey針をdigital force gaugeに接続し測定した。患者を砕石位とし腹壁の皮膚を切開後に、針を腹側から腟側へ貫通させその時の剪断強度を測定した。前者は腟式膀胱頸部挙上術の時に測定し、後者は腹式子宮摘出術の時に測定した。 結果:腹圧性尿失禁患者の腟前壁と腹直筋筋膜の剪断強度は、対照患者のそれよりも有意に減弱していた(p<0.01)。左右差は認めなかった(表参照)。 討論:尿失禁に関与する組織の生物物理学的な研究は極めて少ない。Ulmstenら(1987)は尿失禁患者の腹部皮膚と子宮円靭帯のcollagen含有量を測定し、尿禁制者と比較して有意に減少していることを報告した。著者は腹圧性尿失禁患者の腟前壁剪断強度が低下していることを確認した。この事実は膀胱頸部の過可動性に結び付く所見である。一方腹直筋筋膜の剪断強度を検討したところ、この値も対照群に比し有意に低下していた。腹直筋筋膜の強度は尿失禁に直接関与する因子ではなく、両群で差が無いはずである。この現象は結合織collagenの先天性異常の存在を考慮にいれない限り説明が付かない。 結論:腹圧性尿失禁患者の腟前壁と腹直筋筋膜の剪断強度は、対照患者に比し有意に減少していた。この事実は腹圧性尿失禁患者の結合織組成に先天性異常の存在することを示唆するものである。
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