1993 Fiscal Year Annual Research Report
ケイ素置換三重項ベンゼンジアニオンの有機強磁性体への展開〜多重項化、多次元化、高分子化の検討〜
Project/Area Number |
05740423
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
江端 啓介 東北大学, 理学部, 助手 (50232971)
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Keywords | 有機強磁性体 / 三重項ベンゼンジアニオン / 有機ケイ素化合物 / 熱的励起三重項状態 |
Research Abstract |
最近、有機強磁性体について研究が活発化してきており機つかの有機(分子)強磁性体が報告されているがそれらは遷移金属または酸素などのヘテロ原始が磁性(スピン)の担い手となっている。真の有機磁性体として炭素原子自体にスピンを持つ磁性体の基本ユニットとして三重項ベンゼンジアニオンが有望視されている。既に前年度の奨励研究において、ベンゼンの水素を全てケイ素に置換し、さらに置換基のケイ素原子同士をメチレン鎖で架橋し立体的に堅固な構造を有するヘキサシリルベンゼンを合成し、そのリチウムによる還元反応により生成したベンゼンジアニオンジリチウム錯体(1)が電子スピン共鳴(ESR)スペクトルにおいて典型的な三重項のシグナルを示すことを明らかとし、そのX線結晶解析にも成功している。本研究では1の電子状態を明らかにし、また多重項化に向けて1をスピロ型に2分子連結した2の合成について検討した。1の黒色粉末のESRシグナル強度の温度変化を測定したところ、三重項に由来するシグナルは室温付近で最大となり、温度の低下にともない単調に減少し100K付近でほぼ消失した。この挙動は1の基底状態が一重項であり、観測された三重項は熱的な励起状態であることを示している。シグナル強度Iは、I=3C/[{3+exp(E/RT)}T]に従い、一重項-三重項のエネルギー差Eは約1kcal/molと見積もられた。また2の合成に関しては現在その前段階化合物である3の合成まで完了しており、3の脱水素芳香族化について検討中である。本研究において1の基底状態が1kcal/molと僅かなエネルギー差ではあるが一重項状態であったことは強磁性体の実現には更なる分子の改良が必要であることを示している。
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