Research Abstract |
地球規模での環境破壊あるいは環境の劣化が顕在化しているが,環境変化の多くは不可逆的であり,場合によっては,取り返しがつかない結果を招くこともある。本研究では,環境の劣化による損失を抑制し,人類社会の持続可能な発展を目指すためには,今後「予防」がますます重要な鍵となり得るという観点に立ち,環境問題における予防主義の概念検討および評価に主眼を据えた。以下は,今年度に得た知見の要約である。 1.環境先進国といわれるドイツにおいて,環境法あるいは環境政策の分野で,予防主義という概念が提唱され,導入されるに至った経過,その問題点等を概観した。予防主義は,単に環境政策のひとつの基本的理念であるだけでなく,環境法のひとつの原則でもあるが,予防主義そのものは何ら実際的な基準となる機能を有しないと考えられている。また,予防の対象となる危険(Gefahr),リスク(Risiko)等という言葉の概念解釈(定義)に関しても,法学者の間で見解の相違がある。ゆえに,現況では,予防主義は環境政策の分野やプロセス,あるいは担当行政部門など,いわば偶然的な要素にしたがって,種々に具体化されていることが判明した。 2.これまでに予防的な環境政策を導入し,それが功を奏したと報告されている国の実例を検討した。スウェーデンでは「治療よりも予防」という考え方が社会システムすべての基板にあること,またシンガポールでは,政府(とくに少数の最高指導層)の強力なリーダーシップによりトップダウン型の決断が迅速になされることが,それぞれ,予防的環境政策が受容され,効果的に推進された背景に特徴的な要因として見いだされた。 3.本研究の過程において,予防的環境政策において回避できない重要な課題は,不確実下の意思決定およびそのためのシステムの構築であるとの考えに至り,それについて若干の検討を行なった。
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