2006 Fiscal Year Annual Research Report
西洋・日本・韓国文学における<新しい女性の形成と変遷>
Project/Area Number |
05F05012
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
西野 常夫 九州大学, 大学院比較社会文化研究院, 助教授
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
GIL M 九州大学, 大学院比較社会文化研究院, 外国人特別研究員
|
Keywords | 恋愛 / 結婚 / 民族愛 |
Research Abstract |
今回は夏目漱石「三四郎」(『東京朝日新聞』『大阪朝日新聞』1908・9・1-12・29)と韓国最初の近代小説(恋愛小説)李光洙の「無情」(1892〜1950)(『毎日申報』1917・1・1-6・14)を比較し、日韓1910年代前後の典型的な<新しい女性>の意味合いの相違を考察した。日本留学中に西洋文学(日本語訳を通じて)や日本の新文学に接した李光洙の文学は、日本文学からの影響を無視できない。李光洙の最初の「愛か」(『白金学報』1909・12)は日本語で書かれており、また彼の「無情」の一部分も日本滞在中に書かれている。李光洙の日記には「虞美人草」(『東京朝日新聞』『大阪朝日新聞』1907・6・23-10・29、ただし、『大阪朝日』は10・28まで)、「三四郎」(『東京朝日新聞』『大阪朝日新聞』1908・9・1-12・29)を読んだという言及があり、漱石から李光洙への影響の可能性を想定することができる。「無情」では、植民地時代の動乱の中で、新青年の李享植、新女性を代表する善馨、旧道徳を守る英採をめぐる三角関係を通して、旧結婚制度を打倒し、自由な恋愛結婚を理想化する若者たちが描かれている。「無情」に登場する女性たちは高等教育を受けたエリートであり、彼女たちの時代に伝統を打破しようとする知的なモダンガールという言葉が生まれた。しかし「無情」では、自由恋愛観を提示しようとする作家の努力はうかがえるが、恋愛観の展開は不十分であり、新しい教育を受け(留学)、国を救おうとする民族主義的な<新しい女>の誕生の描写に重心を置いている点が「三四郎」と相違する。そこに当時の国情の違いの反映を見ることもできよう。両作品における共通点は、<新しい女性>を描写するには、新教育を受けた女性の登場が不可欠な要素であったことである。「三四郎」は日露戦争の後を、「無情」は植民地時代という特殊な社会を描く作品として、近代的な<新しい女性>を描こうとするが、いずれも当時の社会の壁を乗り越えることができなかった。そういう意味では美禰子と善馨の近代性は表面的なものにすぎなかったといえる。
|
Research Products
(3 results)