2005 Fiscal Year Annual Research Report
紛争解決法の分析から見るインド初期仏教教団の歴史的実態
Project/Area Number |
05F05258
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
下田 正弘 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 助教授
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
LEE J.-R. 東京大学, 大学院・人文社会系研究科, 外国人特別研究員
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Keywords | 分裂 / 仏教教団 / 紛争 / 教団追放 / ナーサナ / 律蔵 / パーリ律 / 紛争解決法 |
Research Abstract |
本研究の究極的な目標は、インド初期仏教教団の分裂と異説共存の問題を明らかにすることである。そこで先ず、初期仏教教団で発生したと判断される様々な紛争事件を集め、その内容及び解決法などを吟味することによって、これらを主なデータとして蓄積すべきである。これを通して、教団で起こり得る紛争の種類と、その解決法の多様性が把握できるし、また、いかなる場合に分裂という実態に陥ったのか垣間見ることができるからである。 教団の紛争事件は様々な仏教文献に伝えられるが、特に律蔵と呼ばれる文献には、事件の始末が詳細に伝承されており、最も重要な資料である。従って、先ず律蔵に現れる紛争事件を集め、綿密に読み直す作業を進めている。平成17年11月から12月までは、律蔵の中でもパーリ律に伝えられる紛争記述を集め、翻訳および分析を行った。律蔵は六部派のものが現存しており、これから手順において他の部派の律蔵の記述も調査する予定であるが、漢訳として伝えられる他の律蔵に比べ、パーリ律は、パーリ上座部という伝統的な仏教教団内部で実際に適用されてきた事例を確認することができるという点で、教団内部の実態を把握するために必要な一つの基準を、最も明確な形で提示してくれると思ったので、最初の考察資料として選択した。 また、パーリ律に伝承される紛争記述の翻訳および分析とともに、その一方では、テクストで紛争事件として直接言及されるわけではないが、何らかの形で教団の分裂と関連を持つと判断される幾つかの概念を取り上げ、検討を行った。その中でも、教団からの追放を意味するナーサナ(nAsana)という概念の検討に力を入れた。この用語の分析を通して、今まで知られていた教団追放の罪の内容に考え直す余地があることがわかった。また、紛争事件によって教団追放の罰を受けたという記述は見当たらず、紛争者に対する仏教教団の立場が間接的に確認できた。
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Research Products
(2 results)