2006 Fiscal Year Annual Research Report
図像解明を手がかりとした中国摩崖石窟の空間構想-唐宋時代の千手観音像を中心に-
Project/Area Number |
05J00302
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
濱田 瑞美 早稲田大学, 文学学術院, 特別研究員(PD)
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Keywords | 中国摩崖石窟 / 図像解明 / 空間構想 / 四川地域 / 千手観音像 / 変相龕 |
Research Abstract |
当該研究の二年目に当たる本年は、前年度に実地調査を行った中国四川省資州の千手観音像、および龍門石窟ほかにみられる仏教造像についての論文を執筆し、学会誌に発表するとともに、前年度に引き続き、仏教美術作例の実地調査および文献解読に基づく各データを整理し、データベースの作成作業を進行した。 中国四川資州に現存する唐末宋初の千手観音像についての論文は、漢訳経典はもとより、日本において執筆された千手観音像の図像を説いた著作の記述などに基づき、図像解明を行い、さらに、その図像が現れた時代的地域的背景について言及したものである。その地域・時代に礼拝者に求められた要素が尊像の図像および摩崖石窟の空間に反映されていることを明らかにでき、中国唐宋時代の摩崖石窟美術を研究する上での一つの指針を得た。 また、中国龍門石窟などの洛陽周辺に、しばしば千仏図像を伴い、初唐7世紀後半という限られた時期に造像された優填王像についての論文では、その造像が、当時の則天武后をめぐる政治情勢と、仏教と道教との対立、および初期禅宗との相互の密接な関わりを投影するものであったこと、そして、仏教初伝地である洛陽の権威を喧伝するという役割を担っていたこと、さらには、それが優填王像と周囲の尊像とで寵窟内の空間に有機的に表現されていることを明らかにした。 なお文献解読および実地調査においては、日本に残された文献の有用性を再認識するとともに、栃木宇都宮大谷寺、京都清水寺、那智大社や補陀洛山寺などの日本の平安時代に盛んに造られた千手観音像と、中国の千手観音像に、多くの類似点を見出すことができ、今後、研究対象を日本古代中世の仏教美術作品に拡大させていくことも当該研究に有用であると確認した。
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