2007 Fiscal Year Annual Research Report
スターリン文化におけるショーロホフ-統制された文学の再考-
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05J00305
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
乗松 潤奈 (平松 潤奈) Waseda University, 教育・総合科学学術院, 特別研究員(PD)
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Keywords | スターリン文化 / 全体主義文化 / 社会主義リアリズム / ソヴィエト文化 / 文学統制 / 検閲 / ジェンダー・セクシュアリティ / 身体表象 |
Research Abstract |
本年度も、モスクワやロストフ地方の諸研究機関・博物館で調査を行い、その後、3年間で収集した資料をもとに以下の点を論じた。 (1)スターリン時代の批評 小説『静かなドン』『開かれた処女地』に対する批評(1928-1941年)の読解を通じ、ソヴィエト公式文学の規範の浸透経過を追った。特に、規範に反する要素の取り込みを伴いながら、文学の国家化・全体主義化が進み、体制を一枚岩に保つための特殊な言説空間が形成される過程に着目。 (2)検閲 (1)では、小説による規範の内面化(広義の内的検閲)も論じたが、ここでは、アーカイヴ資料を用いて体制の外的介入の状況を跡づけ、検閲活動のメカニズムを明らかにした。 (3)盗作問題 『静かなドン』は、白軍作家の原稿に後から書き込みが加えられ、体制規範に沿うよう編集されたものだという説が現在でも根強い。本研究は、複数の作者主体の並存が、個的な作者概念を崩壊させた全体主義文化の産物であると論じた。 (4)作品論 二つの既発表論文(『静かなドン』の女性表象とコサック表象について)を、(1)〜(3)の観点を取り入れて論じ直した。 以上をまとめ、博士学位申請論文『寸断されたテクスト-『静かなドン』とソヴィエト文学体制の成立』として2008年3月に東京大学に提出。 従来のソヴィエト全体主義文化研究が主に、党決定や著名な論文をもとに表面的・制度的側面を論じるか、大量の作品をタイポロジー的に整理していたのに対し、本研究は、1,2作品とその周辺テクストの分析からこの文化の主要な問題点(作者・読者概念の変容、新たな現実概念の創出、検閲制度など)に切り込んだ。このアプローチにより、文化を駆動させた原理の実質を総体として析出できたのではないかと考える。 また、翻訳とインタヴューを担当した以下の著書を刊行。ミハイル・ヤンポリスキー『隠喩・神話・事実性』平松潤奈・乗松亨平・畠山宗明訳、水声社、2007年。
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Research Products
(2 results)