2005 Fiscal Year Annual Research Report
ベンヤミンの比較的初期の文学理論から考察する、<近代>の文学的言説がもつ諸問題
Project/Area Number |
05J00355
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
小野寺 賢一 早稲田大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | ヘリングラートの「語の結構」 / ヘルダーリンの「ツェズーア」 / 『青年の形而上学』の「死」の意味 / 革命的「時間の転回点」 / 絶対的自由としての「無作用なもの」 / 実践的政治性の拒絶 / 文学的の経験の超-政治的意義 / 『歴史の概念について』 |
Research Abstract |
10月9日、同志社大学日本独文学会2005年秋季研究発表会において、「ベンヤミンのエッセイ『青年の形而上学』における死の意味-ベンヤミンによるヘルダーリン・ヘリングラート受容を中心に-」と題した研究発表を行った。そこでは、ベンヤミンが『フリードリヒ・ヘルダーリンの二つの詩作品》詩人の勇気《-》臆する心《』を執筆するにあたり、ノルベルト・V・ヘリングラートの博士論文、とりわけそこで展開される「語の結構」の理論をいかに読みかえ、自らの詩の理論に応用したかを論じた。さらにヘルダーリンが演劇の理論で用いた「ツェズーア」と「釣り合い」の概念を理解する際の両者の差異に注目し、この演劇理論が『青年の形而上学』の「死」と時間の概念を基礎づけていることを明らかにした。 この成果をふまえ、4月に予定している『ドイツ文学』誌への投稿準備をするなかで、本研究課題にとって重要な洞察をえた。当該のヘルダーリン論は一見、当時実践的な政治運動を拒絶していたベンヤミンの志向を反映した、純粋に思弁的な文学論であるようにみえる。しかし詳細に検討すると、問題となっているのは(通常の意味における実践的な政治性を超えるという意味で)、美学的経験の超-政治的意義であることが分かる。》臆する心《では、ほぼ一義的にフランス革命を意味する「時間の転回点」をとらえることが詩人の運命として描かれる。その運命を担う以上、詩人は革命の理念である自由を極限まで純粋に保持しなければならない。運命を担うことで神と人間とを媒介しつつも絶対的に「無作用なもの」であること、それこそベンヤミンが》臆する心《に見出した詩人の「死」の意味である。当時の彼の実践的政治性に対する決然とした拒絶は、その文学理論の超-政治的な練り上げの帰結であり、『歴史の概念について』に至る彼の時間と歴史の哲学は、ヘルダーリンの美学を基礎とするものであると考えられる。
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