2005 Fiscal Year Annual Research Report
日本帝国における戦時労働力動員の展開過程-徴用制度を中心に
Project/Area Number |
05J00455
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
佐々木 啓 早稲田大学, 文学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 徴用 / 労働力動員 / 翼賛体制 / 総力戦体制 / アジア・太平洋戦争 |
Research Abstract |
本年度は、修士論文でまとめた日本帝国内地における戦時労働力動員の展開過程について、(1)その理論的な整理と、(2)個別的な論点を掘り下げる作業を行った。 (1)では、先行研究や現在の戦時期研究をめぐる理論状況を整理した上で、徴用制度の展開過程についての全体的な見取り図を示し、特に1943年以降、国家の政策によって制度そのものが大きく変容していくことを明らかにした。民衆の戦意の持続、あるいは総力戦への自発性という問題を考慮するならば、これまでの多くの研究が示してきたような、徴用制度を「軍事監獄」、あるいは民衆生活との矛盾という視点から描く方法では、徴用制度の全体像を示したことにはならない。少なくとも取り締まりの強化、労資関係の再編、徴用援護事業といった諸要素について詳しく見る必要がある、という考えを提示した。 (2)では、徴用制度下の労資関係への国家介入の増大という問題について検討した。1941年8月以降の民間事業場への徴用の拡大は、徴用の国家性と企業の営利性の矛盾を惹起し、徴用工の資本に対する不満を強めた。そのため、徴用工の名誉を重視する見地から、生産現場への皇国勤労観の徹底、企業の国家性の明確化が求められた。こうした状況を受けて、43年頃から徴用の名誉性に見合った労資関係の再編が本格的に目指されるようになった。企業においては生産秩序の軍隊式化と温情的な指導方針、福利厚生施設の充実が理想として追求され、国家政策においては、「社長徴用」、軍需会社法、職階制の導入といった形で、企業経営に対する国家介入が追及された。以上のように徴用制度の拡大と労資関係の変容を実証することで、戦争末期の徴用制度の実態の一側面を明らかにした。 なお、これらの内容については、2006年2月11日に開催された歴史問題研究所・アジア民衆史研究会主催「国際学術交流」における報告「戦時期の民衆像をめぐって」の中でも触れた。
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Research Products
(2 results)