Research Abstract |
本年度は,行動・感情・自律神経系活動の関連性について検証する前に,その理論的な背景となる構成主義の枠組みについて,基礎理論および臨床理論の検討を行った。 基礎理論に関しては,ファイヒンガー,ショーペンハウアー,パース,デューイ,ジェームズといったプラグマティズムの系譜を再考した。とりわけ,ファイヒンガーの哲学については,欧米ではカントの哲学を発展させた理論として有名であるが,日本ではここ100年ほどでも論文が数本しかなく,これを本邦で論じることは有意義だと思われる。 またその哲学的系譜を現代の構成主義の観点から再評価することで,主観主義と客観主義を統合的に論じる新しい科学哲学となりうる可能性を示した。この観点からすると,知識はつなぐことによって形成され,科学もまたつなぎ,むすぶプロセスであることが示唆された。 臨床理論としては,まず複雑系科学が心理療法に対してどのような影響をもつのかについても研究をおこない,従来の心理療法の問題点が時代遅れの科学観に由来することを説き,代わりに新しい科学,すなわち複雑系科学とも親和性の高い構成主義心理療法が紹介された。 複雑系科学の示唆の1つは,「心」が身体や社会などと切り離せない関係にあるということだが,これは構成主義の主張とも重なる。だが,日本では,構成主義と社会的構築主義がしばしば混同されているため,この誤解を解くべく身体論や科学との親和性という観点からこれらの理論の差異について論じ,それぞれの臨床実践の特徴を明らかにした。 また,構成主義と社会的構築主義を仏教道教哲学の観点から捉えなおし,その発想に基づく心理療法の理論化も試みた。これらの関係について論じた文献はほとんどないが,問題の「解消」という観点から理論化すれば,心理療法の統合理論となりうる可能性を示唆した。
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