Research Abstract |
構成主義においては,認識や感情といった人間経験は身体性を基盤としつつ,生物学的なプロセスだけでなく,社会文化的な文脈に組み込まれていると考えられている。たとえば,感情経験に姿勢が関与しているという研究が少なからずあるが,そこには神経科学的な作用のみならず,当該の文化で歴史的に形成された意味づけなども関わっている。本年度は,前屈,後屈,直立という3種類の座位姿勢がどのような主観的感情状態を生み出し,またそれがどのような生理反応と関わっているかを検討し,その臨床的な応用可能性についての論考を行なった。 まず,上記の3姿勢が,心拍,末梢皮膚温,指尖容積脈波,呼吸といった自律神経系活動がいかに変化するのかを再検討した。その結果,後屈の姿勢は快感情を生じさせ,前屈姿勢は抑うつ的なネガティブな感情を生じさせることが再確認された。また,表情等の先行研究からは,自律神経系の各指標の反応パターンから個々の情動反応を検出できる可能性が示されていたが,姿勢の場合はそれが作り出した感情状態と自律神経系の反応とは対応しないことが判明した。これにより,姿勢による感情変化のプロセスにおいて,生物学的ではない変数,つまり姿勢に対する認知やイメージが媒介している可能性が示唆された。 次に,その臨床的応用に関する理論的研究を行なった。近年,西洋の心理療法の分野では,「マインドフルネス」という「気づき」を中心とする意識状態が注目されているが,東洋の伝統では精神性よりもむしろ身体性が重視される。日常的に使われる「姿勢を正す」という言葉かけも,姿勢を整えることによって「心」を整えることを意味する。臨床場面においても,意識性自体を排し,逆に姿勢を変えることで意識に変化をもたらすというアプローチがあってもよい。これに関して,「ボディフルネス」という概念を提起し,西洋と東洋の心身問題から臨床的な問題について論じた。
|