2005 Fiscal Year Annual Research Report
ナイジェリアの宗教共同体におけるオリシャ崇拝:大西洋を渡るアメリカ黒人の文化実践
Project/Area Number |
05J01040
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小池 郁子 京都大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | オリシャ崇拝(伝統宗教) / 社会宗教運動 / 人権(民族)的マイノリティ / アメリカ黒人(アフリカ系アメリカ人) / アメリカ合衆国・アフリカ / 身体的宗教行為 / 文化創造 / 文化人類学 |
Research Abstract |
本年度の研究から明らかになったことを以下に述べる。 アメリカ合衆国における黒人社会宗教運動の実践者のあいだでは、アフリカの真正な宗教とはイスラム教である、という見解が普及している。それゆえにアフリカの宗教・文化に関心をもつアメリカ黒人の多くはイスラム教に改宗した経験をもつ。本研究でとりあげるアメリカ黒人のオリシャ崇拝者(宗教運動の実践者)の多くもかつてはイスラム教徒であった。しかし、のちのオリシャ崇拝者はしだいにイスラム教もまたキリスト教と同様にアフリカを「植民地化」した宗教であるという認識を共有するようになる。のちのオリシャ崇拝者は、アフリカの土着の神々であるオリシャを崇拝することこそがあらゆる植民地的支配から脱却できる契機をアメリカ黒人およびヨルバ人(アフリカ人)に与えるという解釈をもとに、みずからの宗教・文化行為を宗教運動として成立させしめた。また彼らにとって重要なのは、オリシャ崇拝は他者を植民地化した歴史がない(制圧的に改宗させた歴史がない)、という事実である。 ヨルバランドでは、北方からのイスラム化および主にフランス・イギリスによる植民地制度のもとでのキリスト教化によって土着の神を信仰する人口割合は非常に少ない。ただ、イファ託宣行為や家族信仰、年中・地域行事を通じて土着の神々であるオリシャ=ヴドゥンにたいする信仰が残っている。またベニン共和国では国家によって「伝統宗教週間」(毎年1月15日の前後1週間)が制定され、伝統宗教の価値やそれを実践することの意義が問い直されている。2006年度にはヨルバの神話で人類創造の神と崇められているオドゥドゥワを祝う祭がこの期間に開催された。このオドゥドゥワ祭はベニン共和国やナイジェリアのヨルバ人だけでなく「世界に離散したヨルバ人」とも共有されるべき文化遺産であると定義されている。そのために、ベニン共和国とナイジェリアの国境に祭りの中心会場がおかれ国籍を問わずすべての「ヨルバ人」に開かれたものとなった。 以上述べたようなオリシャ崇拝の状況を踏まえて、ヨルバランドの宗教共同体とアメリカ黒人の宗教共同体との宗教・文化交流が同時代的に多面的に促進される過程にあることが明らかになった。
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Research Products
(2 results)