2005 Fiscal Year Annual Research Report
歴史意識としての「満洲」-満洲移民に関する戦後言説の社会学的分析-
Project/Area Number |
05J01097
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
猪股 祐介 京都大学, 大学院・人間・環境学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 満洲移民 / 引揚者 / 中国残留日本人 / 歴史社会学 / 戦争の記憶 / 戦後社会論 |
Research Abstract |
本年度は岐阜県黒川開拓団に対する聞き取り・訪中団同行というフィールドワークと、集団引揚者や中国残留日本人の体験記に対する文献調査により、以下の三つの問題について新たな知見を得た。 1.満洲移民体験者の語りに関する先行研究の総括 満洲体験者の語りを扱った先行研究を分析した結果、1990年代以降、入植から引揚げまでの史実の解明から、それら史実が戦後語られ綴られる過程の解明へと、その問題関心が移行したことを指摘した。さらにこれら新しい研究動向について、「語りの場」と「語りの形式」という二つの視角から整理し、前者においては戦後社会と引揚者の間の歴史認識の乖離が、後者においては語りの断片化が、それぞれ問題化されてきたことを明らかにした。 2.地域社会における「満洲の記憶」の形成過程 岐阜県黒川開拓団を事例に、1972年の日中国交正常化により旧入植地訪問が可能になった1980年代、満洲体験の語りの場・形式に劇的な変化が生じたことを明らかにした。国交正常化以前、満洲体験は開拓団関係者の「拓友会」の内部でひそかに語られるに過ぎなかった。だが80年代以降、訪中団が繰り返し派遣され、それが旧入植地との青少年交流事業に発展したことで、拓友会内部で抑圧されてきた記憶が語られ、地域社会において「ムラの歴史」として共有されたこと、また拓友会の活動が慰霊から顕彰、そして「満洲の記憶」の継承へと大きく様変わりしたことを明らかにした。 3.中国残留日本人の「残留」パターンの類型化 中国残留日本人の体験記や聞き書きを分析し、彼らが中国に取り残される契機である中国人家庭に入った経緯について、「遭難型」「困窮型」「就労型」の三つに類型化した。そしてこの本人の主体的意志が介在する可能性によって導かれた三類型が、残留日本人の満洲体験及び残留体験の語りを分析する際に、有効な分析概念となることを示した。
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