2005 Fiscal Year Annual Research Report
カンボジアにおける地域社会の復興と生活世界の編成:ポルポト期以後の構築過程の研究
Project/Area Number |
05J01165
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小林 知 京都大学, 東南アジア研究所, 日本学術振興会特別研究員(PD)
|
Keywords | フィールドワーク / カンボジア / 国家権力 / 社会の復興 / 文化再編 / 生活世界 / 社会史 / コミュニティ |
Research Abstract |
1975年4月から1979年1月までカンボジアを支配したポルポト政権は、20世紀の世界史上でも特異な全体主義的支配を行ったことでよく知られる。具体的には、市場や貨幣を廃止し、農地などの財を集産化した。また、政治的基準に従って人口をカテゴリ分けし、別々の居住地を指定した。強制的な移住政策も、多くの地域で突然・頻繁に行った。さらに、政治的理由による粛清、劣悪な食糧状況による餓死、医療システムの不備に起因する病死などを含め、わずか4年に満たない期間に生み出された国内の死者数は、150万人を超えたといわれる。 本研究は、現地語を用いてカンボジア農村で行った長期フィールドワークに基づき、ポルポト政権下の社会状況の実態と、その後の社会復興の具体的過程を解明した。上述した政策が示唆するように、ポルポト政権の支配は、既存の社会編成を根底から覆すことを目的としていた。よって、その後の地域社会の復興過程の考察は、タンザニアや旧ソ連領中央アジア諸国などかつて社会主義体制を経験した国や、長期にわたって独裁型の強権支配を経験したインドネシアなどの、多くの他国社会との間に、比較社会学的な関心を惹く。そこでは、国家権力の強圧的支配に対抗する、コミュニティの自己再生能力とでも言うべき社会動態と、個々人の生活世界の再構築、文化的伝統の再編といった局面が問題となる。 論文「カンボジア、トンレサープ湖東岸地域農村における集落の解体と再編」では、以上の関心に基づき、一村落社会の1970年以降の歴史経験を検証した。そこでは、結婚後の妻方居住選択の傾向という社会編成上の特徴が、内戦とポルポト政権の支配の前後を通して一貫して見出されることを実証的に指摘した。また、ポルポト時代後ごく早い時期にみられた強制移住先からの住民の自発的な帰還こそが、その後の社会復興の方向を決定付ける役割を果たしていた点を明らかにした。
|
Research Products
(1 results)