2006 Fiscal Year Annual Research Report
広帯域テラヘルツ時間領域分光を用いた量子常誘電体・強誘電体混晶系の研究
Project/Area Number |
05J01611
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
市川 雄貴 京都大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 量子常誘電体 / テラヘルツ時間領域分光 / ソフトモード / 不純物 / 秩序化 |
Research Abstract |
量子常誘電体KTaO3は極低温においても高い誘電率を保ちながら常誘電相でありつづけるが、わずかな不純物によって静的誘電率の温度依存性に強誘電ピークが現れる。この現象の起源を明らかにするために、強誘電ソフトモードと静的誘電率を同時に観測できるテラヘルツ時間領域分光を主とした実験を行い、研究を進めた。テラヘルツ領域の複素誘電率を直接観測することで、ABO3型ペロフスカイト構造を持つKTaO3は、BサイトをNb置換した場合と、AサイトをLi置換した場合とで、強誘電ピークの出現機構が全く異なることが明らかになった。Nbドープでは、最低光学フォノンのソフト化がより進行し、ソフトモードの周波数が著しくゼロに近づくことで、静的誘電率の温度変化にピークが現れる。これは、変位型強誘電体で見られる特徴で、Nbのドープ量が増大するほど、フォノンによる誘電率のキュリー温度が上昇するため、NbによるBサイト置換は秩序化をもたらす長距離力を増大させる効果があることがわかった。一方で、LiによるAサイト置換の場合は、ソフトモードはハード化し、GHz以下の帯域に不純物ダイポールによる巨大な緩和子が出現する。静的誘電率のピークの起源は、この緩和子の臨界緩和である。これは秩序無秩序型の強誘電体の特徴であるが、その秩序化の機構を調べるために、不純物ダイポールの感受率を抽出し、その温度変化を詳細に調べた。その結果、秩序化を駆動するダイポール間相互作用には、母体結晶の誘電率に依存しない短距離力と、母体結晶の誘電率による遮蔽効果の影響を受けるクーロン相互作用があることがわかった。また、100K近傍に相互作用の切り替わりが起こる温度が存在し、この温度でクーロン相互作用による秩序化が終了することがわかった。これらの成果を国際学会(ISAQM2006 and the 5th APW)で発表し、アメリカの学会誌に投稿した。
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