2005 Fiscal Year Annual Research Report
17世紀中頃から18世紀初頭のナポリ王国における経済学成立過程および啓蒙思想
Project/Area Number |
05J02074
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
吉岡 亮 京都大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Keywords | ナポリ王国 / Giuseppe Valletta / 哲学行為の自由 |
Research Abstract |
平成17年度は当初の研究計画どおり,17世紀末のナポリ王国を代表する思想家ジュゼッペ・ヴァッレッタ(Giuseppe Valletta)の後期の著作『近代哲学とその耕作者たちを弁護したる書簡』(Lettera in difesa della moderna filosofia e de coltivatori di essa)について詳細な分析を実施した。当該著作に関しては,当時のナポリ知識人たちの間でおおきな問題となっていた,近代哲学の主唱者たちに対する異端審問をめぐる論争というコンテクストの中に当該著作を布置して分析し,その意義を,哲学(科学)を抑圧する教会勢力に対して哲学行為の自由を擁護したという点に求める説が有力となっている。哲学行為の自由を擁護した点に当該著作の大きな意義が存在しているという主張は認めるとしても,しかしながら,当該著作の叙述は非常に散漫で,多岐にわたる論点が含まれており,著者の最も中心的な主張が哲学行為の自由にあったということが,著作全体にわたる組織的分析により整合的に裏付けられているわけではない。そこで,本研究ではその点を検証することを目的とし,当該著作を哲学行為の自由というメーンテーマとそれを支える複数のサブテーマとに整理した上で,メーンテーマと各サブテーマがどのように関係しているのかという点を明らかにした。すなわち,当該著作全体を組織的に分析することで,哲学行為の自由を擁護する,緩やかではあるが体系的な理論がその中に存在していることが明らかになった。加えて,ヴァッレッタが教会勢力と対立していたという側面を強調しがちな従来の研究に対して,宗教(信仰)の完全破棄と近代哲学(科学)の積極的推進という二元的な態度のみが見られるのではなくて,宗教(信仰)にも積極的な意義を認めるという態度もあることを明らかにし,従来の人物像に修正を加えた。
|