2005 Fiscal Year Annual Research Report
近代ヨーロッパにおけるユダヤ人の歴史認識及び哲学に関する調査・研究
Project/Area Number |
05J02092
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
向井 直己 京都大学, 大学院・人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 思想史 / ユダヤ学 / ドイツ史 / 新カント派 / 啓蒙と同化 / 国際情報交換 / ドイツ:イスラエル |
Research Abstract |
1.今年度の研究目標は、『ユダヤ教起源の理性の宗教』におけるヘルマン・コーヘンの思考の主特徴を、「曖昧さ」という観点から再検討し形式化することにあった。これに即し、2005年10月10日、日本独文学会秋季研究発表会において「ヘルマン・コーヘンにおける知識の体系と宗教」と題する発表を行い、初期の科学認識論から、晩年期の思考における「曖昧さ」が形成されてゆく過程について報告した。この際に「曖昧さ」の顕著な事例として着目したのは彼の倫理思想であり、それが宗教哲学に引き継がれる中で、「個人」と「国家」という二極をめぐって現実と幻想とが互いに交錯してゆくさまを確認した。しかし一方で、彼以前の倫理思想において規範的な枠組みであった「共同体」について考察するゆとりがなく、コーヘン自身が移行概念と呼んだこの概念を「諸民族Volker」或いは「諸国民Nationen」といった観点から検討することが次の課題となった。 2.上の課題の検討にあたり、下半期はコーヘンの師にあたるH.シュタインタールの『一般倫理学』に注目し、その言語学的・民族心理学的な基礎づけの乗り越えの過程、またその途上で現実への関係が失調するなかで、思惟が「曖昧さ」に落ち込んでゆく過程を検討した。さきの発表を聞いた編集委員より、2006年度刊行予定の日本独文学会機関紙、特集「Nation/Nationalismus(仮題)」への寄稿依頼を受けたため、現在はそこに向けて下半期の研究を纏めている最中である。 3.2006年2月9日より3月9日まで、ドイツ、ベルリンに渡って資料調査を行った。ベルリン・レオ・ベック研究所や国立図書館での資料収集において、同化やユダヤ教改革といった歴史的運動とユダヤ史記述との連関に関する多数の原資料を閲覧し、その複写を持ち帰る機会を得た。これらの資料の紹介を通じ、日本におけるユダヤ学の振興に寄与したい。
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