2006 Fiscal Year Annual Research Report
近代ヨーロッパにおけるユダヤ人の歴史認識及び哲学に関する調査・研究
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05J02092
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
向井 直己 京都大学, 大学院人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | ユダヤ思想史 / ドイツ思想史 / Hermann Cohen / H.Steinthal / ドイツ民族思想 / 歴史哲学 / 民族同化 / 言語哲学(19世紀) |
Research Abstract |
本年度の研究は、前年度の研究を通じて得られたヘルマン・コーヘンの思考モデルを、「19世紀のユダヤ人」という枠組みに敷衍して捉えてゆくものであった。これに即して、平成18年6月3日に学習院大学において「H.コーヘンと初期ベンヤミン」と題する研究報告を行い、20世紀を代表する同化ユダヤ人思想家、W.ベンヤミンの思考との対比のうちにコーヘンの思考が帯びている19世紀的特徴について報告した。このとき確認された時代的特徴とは、1)事象の科学的・一般的記述に対する強固な信頼、2)客観化できない個別的経験に対する冷静な諦念、の2点である。 これを敷衍するにあたって、青年期コーヘンの師にあたるH.シュタインタールの提唱した「民族心理学」の構想に注目し、それが持つ政治的含意を思想史的に研究した成果が、民族精神の『解放』-19世紀ドイツにおける『民族心理学』の試みから」(日本独文学会編『ドイツ文学』132号)である。この論考では、「Nation」の概念を軸に、個別的経験の絶えざる破断と超出の果てに、一般的理念がまったく非現実的なものとして現れる契機を明らかにしている。この契機は民族の史的展開のうちに配されており、それゆえに彼らが歴史に向ける意識において、存在者と非存在とが絡み合うあり方が問題として前景化してきた。またこの研究を通じて、「法的・社会的マイノリティが最も原理的なナショナリストになる」という奇妙な事態について一定の見通しを得た。これにより一方では現代パレスチナにおけるアクチュアルな政治問題の解明に、また一方ではユダヤ教内部における異端/正統の問題の理解に寄与する点があるだろう。 昨年度に引き続き、海外における資料収集で膨大な資料に触れ、改めて刺激を受けるほか、国際ユダヤ学会への参加や京都大学人文科学研究所の研究会への参画を通じ、より広い領域・視野での展望が得ることができた。
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Research Products
(2 results)