2005 Fiscal Year Annual Research Report
集団における能力の学習過程に関する行動経済学的アプローチ
Project/Area Number |
05J02098
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
河合 啓一 京都大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 現状点バイアス / 選好の不完備性 / 教育経済学 |
Research Abstract |
経済学で標準的に用いられてきた合理的意思決定モデルの一般化を行った.より具体的には,顕示選好アプローチと密接に関連している新しい概念を導入することによって,合理的な基礎付けを保ちつつ,豊かな構造を持つ意思決定モデルの構築に成功した.特に,このモデルは現状点バイアス(Status Quo Bias)と呼ばれる現象を許容するモデルになっている.現状点バイアスと呼ばれる現象は,標準的な経済理論では説明困難な非合理的な行動と考えられている現象で,実験経済学や心理学の世界で頻繁に観察されてきた.ところが,このモデルから得られる一つの帰結として,現状点バイアスは選好の不完備性によって生じるということが挙げられる.別の表現をすれば,意思決定者が一つの評価基準に還元不能な複数個の評価基準を持っている場合に,現状点バイアスが観察されうるということになる.したがって,現状点バイアスと合理性は両立しうることが示されたことになる.これは実験や心理学の世界で発見され,標準的な経済理論と矛盾すると考えられている行動も,合理的な行動の帰結として生じたものとして説明可能であるという可能性を示している.これによって,教育経済学といった,標準的な経済理論の直接的な適用が困難と考えられていた領域に関しても,合理性という立場を取る経済学側からのアプローチの可能性が,今まで考えられていた以上に高いということが示されたといえる.
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