Research Abstract |
本研究では,窒化物半導体を用いた機能的光学素子の作製及び評価を念頭に置いている.第一,第二年次ではc面と呼ばれる,ウルツ鉱結晶の最も対称性の良い面を基板とし,その上にエピタキシャル成長したInGaN量子井戸を作製,及び時間・空間分解分光測定や,光学利得の実測を行い,特にレーザダイオード(LD)の活性層としての性能を評価した,さらに,ウルツ鉱構造が持つ対称性を考慮したk・p摂動論の展開,及び多バンドレート方程式の定常解・過渡解を計算し各種実験結果と照らし合わせることで,c面InGaN量子井戸の光物性の解明を行った.その結果,発振波長が470nm程度の比較的In組成の大きな長波長InGaN量子井戸LDにおいては,レーザ発振しきい値キャリア密度程度の高キャリア領域でもなお,活性層にはピエゾ分極に由来する量子閉じこめシュタルク効果(QCSE)が存在し,輻射再結合確率が30〜40%に低下していることを定量的に明らかとした.この流れを受けて,最終年次である本年は非c面上の結晶成長を試み,QCSEの低減した長波長InGaN量子井戸LD構造の作製に成功した.現状での最長波長は475nmである.また,このような対称性の低下した結晶面上の量子井戸は大きな光学異方性を伴うことを明らかとし,これを理論的に解析した.その結果,活性層が受ける歪みの異方性が最も光学特性を支配していることを明らかにした.また,この結果を利用して,活性層における歪みを積極的に制御することで,任意の偏光特性を持った発光ダイオードや,LDの壁開面の利用など,応用上重要な物性制御方法を開発するに至った.つまり,窒化物半導体を用いた,長波長かつ機能的光源の開発への道を創成した.
|