2005 Fiscal Year Annual Research Report
高分子超薄膜のガラス転移ダイナミクスの非弾性中性子散乱研究
Project/Area Number |
05J02255
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井上 倫太郎 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | アモルファス / ガラス / 高分子薄膜 / ダイナミクス / 非弾性中性子散乱 / ガラス転移 / 緩和運動 / 低エネルギー励起 |
Research Abstract |
高分子薄膜の熱的及び力学物性はバルク状態と大きく異なることが知られている。特にガラス転移温度の膜厚依存性は非常に興味深い現象の一つと考えられており、一般的に基盤との相互作用が比較的小さいような系では膜厚が減少するとガラス転移温度も低下することが知られている。しかしながら、そのメカニズムに関してはあまり多く知られていないため、今なお高分子薄膜の未解決問題として位置づけられている。ガラス転移現象は緩和現象であるためダイナミクスからの研究が必要とされる。 そこで、我々は非弾性中性子散乱法によりダイナミクスの観点から高分子薄膜の研究を行った。本年度は特にガラスに普遍的な性質である低エネルギー励起(ボソンピーク)及び速い過程と呼ばれる比較的時間スケールの速い運動過程に注目した。その結果、弾性散乱の膜厚依存から膜厚が低下すると運動性に対応する量である平均自乗変位の低下が観測され、それに応じて非弾性散乱強度及び準弾性散乱強度も膜厚低下に伴い減少する事も確認された。より詳細に非弾性及び準弾性散乱の膜厚依存を調べると、ボソンピークのピーク位置及び速い過程の半値幅即ち特性周波数に対応する物理量には膜厚依存性を確認することが出来なかった。つまり膜厚が低下しても運動モードそのものには変化が見られずに、両運動に関係するモード数の低下にのみつながった可能性を示唆している。このような現象が観測された原因として幾つかの可能性が挙げられるが、分子量効果の実験結果から高分子薄膜と基盤との界面での分子鎖の配向が起こったために運動性の低下が見られたと考えられる。 以上の研究により、今まで知られていなかった早い時間スケールでの高分子薄膜の運動性に対してより深い知見を得ることができたと同時に、ガラスに普遍的な性質であるボソンピーク及び速い過程に対しても新たなる観点を得ることが出来たと思われる。
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Research Products
(4 results)