2007 Fiscal Year Annual Research Report
高分子超薄膜のガラス転移ダイナミクスの非弾性中性子散乱研究
Project/Area Number |
05J02255
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井上 倫太郎 Kyoto University, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Keywords | 高分子薄膜 / 非弾性中性子散乱 / ダイナミクス / ガラス転移 |
Research Abstract |
高分子薄膜野物性はバルク状態と大きく異なることが知られている。特に最も興味深い現象としてガラス転移温度の膜厚依存性が挙げられる。様々な測定手法を用いた精力的な研究にもかかわらずその具体的なメカニズムは提出されておらず未解決問題として位置づけられている。その一因としてガラス転移現象そのものがあまり理解されていないことが挙がられる。現在の理解としては旧来考えられてきた熱力学相転移ではなくむしろ緩和現象として捕らえる方が妥当である。そのため、ガラス転移現象を理解するためにはダイナミクスの観点からの研究が必須である。そこで本年度は高分子薄膜のガラス転移現象を理解するためにダイナミクス測定を行った。なお、特にミクロスケールのダイナミクス重要であると考え、その目的のために非弾性中性子散乱測定を行った。サンプルとしては薄膜での物性が良く理解されているポリスチレンを用いた。最初に平均二乗変位の温度依存性に注目したが、薄膜が低下すると平均二乗変位が低下する様子が確認できた。更に温度が上昇するに伴い急激な平均二乗変位の増大が二点観測された。この事実は少なくとも観測している時間スケールに二つの緩和過程が発見していることを示している。低温側では200K付近で観測され、高温側では370K付近に観測された。低温で発現した緩和過程は局所的な緩和過程であるいわゆる速い過程が発現したことを示している。また、高温で発見した緩和過程の物理的な起源はまだ不明な点が多いが、バルクの場合緩和過程が発現する温度とDSCなどで測定されたガラス転移温度と非常によく一致したため高温で発現する緩和過程の発現温度を非弾性中性子散乱から見積もったガラス転移温度と定義することにした。この定義を用いて、薄膜のガラス転移温度も見積もったが我々の予想と反して膜厚が低下するとガラス転移温度が上昇する傾向が確認された。同条件のサンプルを用いてエリプソメトリーによりガラス転移温度の膜厚依存性も調べたが膜厚が低下するに伴いガラス転移温度が減少する事が確認された。つまり同じサンプルを用いたにもかかわらず測定手法の相違によりガすら転移温度の膜厚依存性に関して逆転現象が得られたと言える。現在この逆転現象の原因について考察しているが、緩和時間の分布、測定空間スケールの相違、エネルギー分解能不足などが関連していると考えている。
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Research Products
(3 results)