2006 Fiscal Year Annual Research Report
マックス・ヴェーバーの宗教社会学における理論的研究と経験的研究の統一的把握
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05J03016
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
荒川 敏彦 東京外国語大学, 外国語学部外国語学科, 特別研究員(PD)
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Keywords | マックス・ヴェーバー / 宗教社会学 / 生活態度 / プロテスタンティズム / 予定説 / カルヴィニズム / 召命(有効召命) / 確証 |
Research Abstract |
ヴェーバーの宗教社会学の中核となる『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』について、そのなかの予定説という教義的理念の作用史をめぐる論点について、16、17世紀の神学一次文献を読解しつつ考察した。従来は、予定説の主張の有無がルターとカルヴァンの違いであるかのように論じられる傾向が見られたが、その理解ではヴェーバーの指摘した「理念の作用」という視点が看過されてしまう。予定説はカルヴァンの独自な主張というわけではなく、そもそも予定説の議論自体がアウグスティヌス以来、キリスト教思想に伝統的な問題だったからである。トレルチも指摘するように、ルターも二重予定説を論じており、カルヴァンはその教義を体系化したのである。むしろヴェーバーが問題視したのは、ルター本人やカルヴァン本人の後の後継者における異なる発展、すなわち「ルター派」が二重予定説から後退し、「カルヴァン派」が二重予定説を先鋭化して教義の中心に据えていくという、16世紀後半から17世紀中葉--ヴェーバーは「宗教戦争の時代」と呼ぶ--にかけての諸派の信仰実践のあり方であった。カルヴァン派では16世紀後半になると、召命が有効召命/無効召命/無召命の3つに区分され精緻化し、信徒は有効召命をこそ求め、その確証へと突き動かされ、生活態度を規律化したのである。その過程分析のためにヴェーバーは、教義の体系化と信徒の欲求(救済の獲得)との相互関係を細部にわたり記述している。そのため、ヴェーバーが『倫理』本文で示唆した「理念の作用」という視角は、歴史叙述的な場面では「信徒と理念との相互作用」として具体化されているのであり、解釈者は歴史における教理と信徒の相互作用の実態を、解釈しつつ理解することが求められてくる。論文ではこうした点を指摘し、「歴史における理念の作用」と題して近刊予定の『ヴェーバー論争』に掲載予定である。
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