2006 Fiscal Year Annual Research Report
平安時代後期・鎌倉時代貴族社会における漢詩文の基礎的研究
Project/Area Number |
05J03460
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Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
仁木 夏実 大谷大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 鎌倉時代漢詩文 / 『鳩嶺集』 / 西澗子曇 |
Research Abstract |
「平安時代後期・鎌倉時代貴族社会における漢詩文の研究」という研究課題にもとづき、今年度は主に三つのテーマに沿って研究を行った。 一つは、昨年より開始した『鳩嶺集』の研究である。『鳩嶺集』は、石清水八幡宮に関わる漢詩文の摘句集であるが、鎌倉時代の作を中心に構成されており、当該期の漢詩文を知る上で貴重な史料である。これまでほとんど研究されていなかったこともあり、昨年発表した『鳩嶺集』の成立過程について考察した論考は予想以上の反響を得ることが出来た。今年度はそれとは少し角度を変えた視点から『鳩嶺集』をとらえるべく、所収作者中唯一の中国人禅僧である西澗子曇(1249〜1306)に注目した。彼の作が入集した背景について考察を行い、国際学術シンポジウム「ブックロードと異文化交流」(於中国杭州)において口頭発表、さらに論文化した。 次に、『鳩嶺集』とほぼ同時代の宮廷を中心とする漢詩文制作のあり方の研究である。従来ほぼ省みられることのなかった当該期の漢詩文であるが、当時の日記類などを見ると、亀山・後宇多父子を中心に、石清水八幡宮をはじめとする寺社への行幸の際には願文が制作され、宮廷でも数多くの詩会が行われていたことが分かる。特に今年は中国の経書の一つ『尚書』講義とそれに伴う詩会について整理し、その文学史上における意義について考察を行った。この詩会では会場の壁に孔子の画像が掛けられたとされ、画像を前にした文学制作の場の例としても注目されるが、さらに、後代の花園天皇が主催した『尚書』講義との関連も留意するべきであろう。この問題に関しては、国際シンポジウム「世界における日中文化と文学」(於中国長春)において口頭発表を行った。 最後に、漢詩文資料の収集が挙げられる。本研究課題の目的の一つは鎌倉時代漢詩の収集である。従来当該期の漢詩文に向けられた関心はあまりに低く、未だ知られていない資料、あるいは存在は知られていながら翻刻等の紹介が行われていない資料がかなり存在すると思われる。そうした現状を改善すべく、今年度は宮内庁書陵部や東京大学史料編纂所において資料調査を行い、「釈奠部類記」(書陵部蔵)、「鎌倉末名家詩懐紙」(史料編纂所蔵)などから漢詩を採集し、研究にとりかかった。また、金剛寺(大阪府河内長野市)の科学研究費補助金による史料調査に継続的に参加し、新たに発見された「明句肝要」という願文類の名句を抄出した書について、共同研究を行った。翻刻と解題からなるその成果は、近く同研究の研究報告書に掲載される予定である。
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Research Products
(1 results)