2006 Fiscal Year Annual Research Report
モロッコ南部ベルベル社会におけるイスラーム的知識の生成と流通を巡る人類学的研究
Project/Area Number |
05J03661
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
齋藤 剛 成蹊大学, 大学院文学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | イスラーム / 聖者信仰 / 民衆イスラーム / ベルベル / シュルーフ / モロッコ |
Research Abstract |
本年度の研究においては、イスラーム的知識の担い手としてこれまでの人類学的イスラーム研究などにおいて注目をされてきた伝統的宗教知識人(ウラマー)、イスラーム神秘主義者、聖者などの活動に注意を払いつつも、むしろ既存の研究において彼らによって発せられた宗教的メッセージを一方的に受容するものとして描かれてくることのあった一般の住民の側から聖者や知識人の活動が拘束をされてゆく側面に着目をすることによって、研究課題の遂行に努めてきた。 その成果の一端として本年度は、(1)『奇蹟・知識・篤信-モロッコ・シュルーフ社会における聖者、知識人、民衆をめぐる人類学的研究』を発表した。 同論文は、モロッコ南部スース地方を主たる故地とするベルベル系シュルーフ(Shluh)の事例を主な手がかりとして、現地社会における聖者、ウラマー、および「民衆」の関係を歴史人類学的観点から論じたものである。その主旨は、事例に即して言うならば、「民衆イスラーム」の代表的事例としてこれまで捉えられてきた聖者信仰について、とくに19世紀以降のモロッコの歴史的状況の変容に注目しつつ、「民衆」の日常生活の中に占める聖者信仰の社会的位置づけを再考しようとすることにある。また、理論に即して言うならば、本論文は、宗教テクストの集積を通じた宗教的知識とそれを解釈するウラマーの存在によって特徴づけられるイスラームの特性を重視して知識論的視点から理論化された「民衆イスラーム」論を再考し、これを補完する理論的視点を提示することを目的としている。 以上のような事例および理論という二つの側面から進められた本研究は、既存の人類学的研究においてしばしば見受けられる「民衆イスラーム」を「表象/代表」するものとして聖者信仰を捉え、いわば聖者信仰を特権化しようとする視点の相対化を目指そうとする問題意識によって支えられている。
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