2005 Fiscal Year Annual Research Report
モロッコ南部ベルベル社会におけるイスラーム的知識の生成と流通を巡る人類学的研究
Project/Area Number |
05J03661
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Research Institution | Seikei University |
Principal Investigator |
齋藤 剛 成蹊大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | ベルベル人 / 文化運動 / モロッコ |
Research Abstract |
本研究課題を達成するための一環として、本年度は、近年モロッコで盛んになっているベルベル文化運動を対象とした研究成果を発表した。同運動は、アラブ人、ベルベル人、黒人をはじめとする多民族社会モロッコにおいて、ベルベル人の民族としての集合的アイデンティティーの発揚と形成のために、とくに言語、民俗芸能を文化的シンボルとする活動を展開している。また、モロッコ独立(1956年)後、10年ほど経った1960年代後半より本格化し、とくに1980年代後半からより広い社会的認知を獲得するようになっている。 研究進展にあたって特に留意したのは、(1)ベルベル文化運動を担う主唱者の社会的・文化的背景への着目と、(2)彼らと現地ベルベル社会との離接関係の解明である。 課題(1)については、植民地支配(1912-1956年)より独立(1956年)をへて現在に至るまでの歴史過程の中に同運動を位置づけ、同運動の特性と、その「思想的」系譜を跡付けることによって、明らかにした。ここでの主要な論点は、植民地統治の過程で政策的に開始された近代的教育システムのもとで自己形成を行った世俗的なエリートたちが主唱する文化運動は、植民地支配の過程で輸入された族概念を継承する形で行われており、必ずしもシュルーフたちの生活世界の実情とは対応していないという点である。 上記(2)の問題を検討するにあたっては、ベルベル人が現在生きている社会的世界-人・モノ・情報が過剰にあふれる「中東的」都市的環境-と関連付けて、議論を展開した。そこで明らかにされたのは、個人が族概念をはじめとするさまざまな社会的指標を状況に応じて柔軟に援用している様相である。そうした点からも族概念を固定的かつ絶対的な枠組みとして定着させようとする運動推進者の思惑が、かならずしも現地社会の日常生活と対応していない点が明らかになった。
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Research Products
(1 results)