2005 Fiscal Year Annual Research Report
近世中期上方文化史の研究-京都東山文化圏における文人ネットワークを中心に-
Project/Area Number |
05J03797
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
小笠原 菜穂子 (田邉 菜穂子) 福岡大学, 人文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 江戸文学 / 京都 / 西村定雅 / 近世紀行文 |
Research Abstract |
本年度行った研究の概要は主に次の二点である。 1.『大熊(隈)言足紀行』研究 江戸時代中期の東山をテーマに研究を進めるにあたって、これまで西村定雅という人物を要に研究を進めてきた。それは言わば東山を「内」から捉えようとする試みである。本年度は研究目的「東山の文芸サークル」をより客観的に把握する為に、「外」からの視点を取り入れることにした。そこで、筑前博多の商家大隈家の一人で、歌人また好事家である大隈言足と、古門の神官で、藩主・黒田侯に献上された『太宰管内志』82巻を成した江戸後期の国学者伊藤常足の、四ヶ月半にも及ぶ関西旅行に着目し、その紀行文『大熊(隈)言足紀行』の翻刻・注釈を行った(福岡県立図書館所蔵の郷土資料調査を含む)。彼らは地方まで名の轟く京都の名家を訪ねては、面会を請い、書画をねだっている。言足が仔細漏らさず記す東山の文人達の動向や交流は、まさに私がもとめる「外」からの視点である。なお、本書は当時の文化伝播、交通事情や庶民の活動、西日本各地の様子を伝える稀有な資料であるため、この翻刻は板坂耀子編『近世紀行文集成(仮題)』京都篇(ぺりかん社より刊行予定)に収録されることが決まっている。 2.月峰伝記・双林寺研究 今年度の計画予定に挙げた「月峰伝記・双林寺研究」については、月峰と交流の深い俳人や画人に関する一次資料を解読し、関連年表を作成した。特に兵庫県伊丹市の(財)柿衛文庫での資料調査では、双林寺で行われた芭蕉百回忌の様子を伝える資料のほか、その百回忌のために剃髪する俳人達の動きを示す資料にいきあたり、文芸と宗教(仏教)の密接な関係という文学研究普遍のテーマに関して、今後さらなる具体例を見つけ検証し、江戸中・後期の東山の場合を見極める必要性を感じた。東山研究を深化させ、博士論文執筆につながる新たな重要課題が加わったように思う。
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