2006 Fiscal Year Annual Research Report
Fr・シュレーゲルにおける美・芸術と共同体の相関関係の研究
Project/Area Number |
05J03820
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
田中 均 神戸大学, 文学部, 特別研究員(PD)
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Keywords | 美学 / 独文学 / 哲学 / ドイツ / ロマン主義 |
Research Abstract |
当該年度の研究実績は、主に以下の三点に整理できる。 (1)シュレーゲルの小説『ルツィンデ』(1799年)研究を継続し、研究成果を『美学』に研究論文として投稿し、査読を経て受理された。そこでは、恋愛という親密性によって成熟した芸術家は、他の芸術家との友情という別の親密性を通して、恋愛という二者関係を相対化すると同時に、芸術家相互において個性を補い合うというモデルがこの小説に見出されると論じた。 (2)このモデルの理論的背景を探るべく、シュレーゲルが「アテネーウム断片集」および「超越論哲学講義」(1800-01年)において展開した理想概念を分析した(準備段階の考察を日本18世紀学会において口頭で発表し、その後の研究成果を『日本18世紀学会年報』に投稿し、査読を経て受理された)。彼によれば、各個体の課題は自己の個性を追求することであり、それら個体は共通の実体から形相を受け取っているので根源的な調和関係にある。しかしこうした構想には難点がある。目指されるべき理想を構想するためには、生成の途上にある世界のなかにありながらその完成態を予見する能力が必要だからである。 (3)シュレーゲルにおける「新しい神話」と公教性/秘教性の問題を検討した(研究成果は日本独文学会において口頭発表し、『ドイツ文学』に研究論文として投稿した。現在査読中)。1798年の『ギリシア・ローマ文学史』においてシュレーゲルは、古代ギリシアの神秘主義において教説が聖職者だけの秘密とされたことを批判し、これに対してソクラテスのアイロニーを、公教性/秘教性の区別のない神秘的言語表現と規定している。このような神秘主義を再興することがシュレーゲルの「新しい神話」の構想と解釈できる。しかし彼の論考『難解について』(1801年)が示唆するように、ロマン主義サークルの言語表現は理解不可能と非難され、彼らの協働は孤立してしまった。
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