2005 Fiscal Year Annual Research Report
太平洋島嶼地域内の保健医療実践における「公平性」の理念に関する人類学的研究
Project/Area Number |
05J03913
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
倉田 誠 神戸大学, 総合人間科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Keywords | 医療人類学 / オセアニア / ポリネシア / サモア / 医療制度 / 公平性 / プライマリ・ヘルスケア |
Research Abstract |
本年度は、主たる調査対象地域であるサモアでの1ヶ月近くにわたる現地調査とニュージーランドの国立図書館、及び、国立公文書館での史料収集を行った。 まず、ニュージーランドにおける史料収集では、20世紀初頭のドイツ統治下でのサモア医療行政に関する行政書簡や1916年から1962年にかけてのニュージーランド統治下でのサモアの医療制度に整備に関する官報、年次報告、学術報告を入手した。それにより、サモアにおける医療政策が極めて短期の植民者と農場労働者の健康管理を基本とする植民地型の公衆衛生制度を経た後、ニュージーランド統治の本格化に伴って、検疫の強化と末端村落からの組織化によって全人口を対象とした公衆衛生制度へと急激に移行したことを跡付けることができた。 また、サモアにおける現地調査では、いわゆる一次医療(プライマリ・ヘルスケア)から二次医療(地域医療)を経て三次医療(高度医療)へと至る段階論のなかで、サモアのような国内人口や医療資源が限られた島嶼地域においては、二次医療の段階において地域格差が意識されていること、さらには、グローバル化によって一部の者が親族ネットワークなどを利用して国外の医療サービスにアクセスすることで三次医療の段階でも微細な不平等感が広がっていることが明らかとなった。 アルマ・アタ宣言(1978)以降、不平等解消の方策として生活地域を基盤とした一次医療の拡充が行われてきたが、情報の伝達と人の移動が飛躍的に増大した今日では、各生活者は生活共同体にとどまらない視野での「公平性」を問題とし初めているという実態が明らかとなった。
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